第1章 チェンバロ
『私、りさ子って言います。 それで君は忍者なのかな?』
「りさ子さん!おれ日向翔陽です。
忍者っていうのは、おれビーチバレーやってるんだけど、
それでなんかそう呼ばれるようになった」
『…ビーチバレーで忍者。 余計に謎が深まったんだけど…笑』
「あー、それはなんつーか……」
『………』
「あ!明日もこの辺いんの?」
『うん、いるよ』
「お!明日さ、そこのビーチで朝9時から試合あるから、暇だったら見にきてよ!」
『おーいいね、 うん、行く』
「よっしゃ!」
『じゃあまた明日、朝9時ね。今日のお礼はまたその時にでも。
ほんとはこの後夕飯でも、って思ったんだけど…
このいい匂いの出どころは、どうやら君の背中にあるバッグからな気がするから』
「うっわ、やべー! 配達忘れてた!」
『…バイトかな? 頑張ってね。 じゃあまた明日!
I'm amped up, Ninja Shoyo!』
手を降り翔陽くんの背中を見送る。
・
・
・
あのあともう少しふらふらと町中とビーチサイドを歩いて
日が暮れる前にホテルへ戻った。
……うん、なかなか楽しい一日だった。
っていうか、今までしてきた旅行の中で一番楽しいひと時だったかも。
ダウンタウンを一人で歩いたこともだし、
泥棒にあったこともエキサイティング。
あの町での日常の光景にたった半日触れただけで、
今までの全てを覆すわくわくを味わうなんて。
いや、非日常もあったかな。
翔陽くん。
サングラスを外したさいに見えた彼の目はとても…
とてもよかった。
あの陽気な人柄の奥に隠された、鋭い野生味みたいなもの。
きらり、ではなく ギラリと光る何か。
思い出してもゾクゾクする。