第2章 玉ねぎ
店内が賑やかになった気がする。
私はちびりちびりと目の前にあるケーキを味わうことで精一杯だった。
ケーキをただ味わおうとしても、
いろんなことが頭に浮かんで
心に何かが込み上げてきて仕方がないから。
「あっれ〜 りさ子、泣いてる〜」
ああ、賑やかになったのはそういうわけか。
オーナーシェフのおでましか。
私のことは放っておいて
あちこちにいるお得意さん候補に挨拶しなよ、もう。
「ねぇねぇ、なんで泣いてるの??」
『………』
「ネェ、なんで泣いてるの??」
『なんか転がってきたの』
「そっかぁ〜 悲しくて泣いてるの?」
『だから涙の理由はいつも悲しいからじゃないの』
「そうだったね〜」
でも涙の理由はいつだって愛かもしれない
『悲しい』
「えっ!?」
『メイクはぐしゃぐしゃになるし、
鼻が詰まって全力で味わえないし、
覚との思い出がいっぱい浮かんできて食べることに集中できやしない』
「ブハハハ! そういえばりさ子、このケーキ食べる時、
いつもすごい静かに集中して食べてたもんね〜 アハハ!おっかしい」
ちっともおかしくないわ、この妖怪め!
『もーどうしてくれるのさ…』
「さぁね〜、俺にはどうにもできないよ〜」
『薄情者』
「ブヒャ-!笑 あっ、そうそう、これあげる〜」
覚の右手のひらにあるのは小さな輪っかの形をしたチョコレート??
『なにそれ』
「元気玉が輪っかになっちゃったから、元気輪?」
『余計なにそれ』
「いいからいいから、左手出して」
『なんで左手指定なのさ』
「いいからいいから」
ちょうだいって手のひらを上にして左手を差し出すと、
覚はその手をひっくり返して甲を上にする。
それからその、元気輪とやらを優しくそっと、
私の薬指にはめた。
「何回食べても何回でも作るよ〜」
…覚の、ばか。