第2章 玉ねぎ
メニューを見ながら長らく色々と迷った末、
今日は違うものを頼むことにした。
パフェにしよう。
栗とチョコレートのパフェ。
間違いなく、美味しい。
ていうかこのお店に美味しくないものなんて一つもない。
食べる前からわかるもん。
オーダーしようと顔を上げると
「Le cadeau de la part de chef」
(シェフからです)
そう言って机に置かれたのは
グラサージュショコラで覆われたドーム型のケーキ。
やだもう覚のばか………
勝手に見つけるのに。
転がってるの、勝手に自分本位に見つけるから、
こんな風に、転がしてこなくていいのに。
『Merci beaucoup』
声が震える。
どうもありがとう、それだけ言うので精一杯だ。
しばらくじっと眺めてから、
フォークを手に取りすっとケーキに入れる。
口に運ぶ。
一掬いごとに、思い出す覚との屋根裏での時間。
あのアパルトマンでの時間。
初めて一緒に迎えた朝、
冷蔵庫には覚の試作したこのケーキがあった。
その日の朝食はこのケーキとコーヒーだった。
そもそも出会いは、このケーキのためのパッションフルーツだった。
最初の一年くらいはすごい熱量で、
このケーキの試作を繰り返した。
それからはたまに、確認するように、微調整するように、
時折材料を揃えて試作してた。
そして何故だかこのケーキだけはいつも、家のキッチンでやっていた。
なんで?
今思うと、それってなんでだったのかな。
今それを考えると、なんかもう泣くことしかできなくなりそうだから考えない。
美味しい。
覚のチョコレートが一番美味しい。