第2章 玉ねぎ
──3月、情熱大陸のオンエアを観たあと、覚に店名のことを聞いた。
『grenierは、うちの屋根裏から来てるの?』
「んー?そうだよー」
『じゃあ、grenierって名前のチョコレートもあるんだね』
「んー?そうだねー」
『屋根裏なんて名前のチョコレート、かわいいね。それにすごくパリっぽい。楽しみだなぁ』
「ふふーん 楽しみにしててねー 美味しいよ〜 うちの看板商品だもん〜」
『うん』
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店内に覚はいなくって。
でもガラス張りになったキッチンの壁から覚が見える。
オーダーを受けてから仕上げる様々なことを丁寧にやってる。
覚がチョコレートを、チョコレート菓子を作る様が好きだ。
そしてそれにまつわる素材に触れる手つきも。
覚がチョコレートをだーいすきというなら
私はチョコレートが大好きな覚のことがだーいすきだ。
チョコレートのメニューにはgrenierという名前はなくケーキのところに見つけた。
看板商品というわりには、普通にというか
一番上ではなく、上から3番目の列にあった。
グラサージュショコラで覆われたドーム型のケーキ。
ケーキの説明には、
ホワイトチョコとパッションフルーツのムース、
ラズベリーのセミコンフィ、
ミルクチョコレートクリーム
とある。
情熱大陸での撮影でうちで話していたやりとりを思い出す。
オンエアにも使われていた。
── 「お店の名前と同じケーキを作ったのはどうして?」
「えぇ〜なんとなくだよん〜 あっちにもこっちにも転がってる感じがしていいじゃーん?」
「転がってる? 何がですか?」
「店の名前が」
「…いやちょっと、わかんないですね」
泣きたくない。
泣くもんか。
今日は、ここは、覚のハレの日、ハレの舞台だ。
メイクをぐしゃぐしゃにしたくない。
鼻水で味がわかんなくなっても困る。
私が勝手に感じとる覚からの愛は
またいつものように、私が勝手にこの場所に見つけていけばいいと思ってた。
っていうかそういうものとしか思ってなかった。
今まで通り、勝手に。転がってるものを見つけてけばいいって。
なんでこんな風に
用意したみたいに名前つけるかな…