第2章 玉ねぎ
それから若利くんはぽつぽつと、
お父さんの話をしてくれた。
幼い頃のことやカリフォルニアに初めて会いに行った時のこと。
それから今も続いているやりとりのこと。
そこから派生して今のチームメイトの話、
高校時代の後輩の話…
店を出て、セーヌ川沿いをふらふらと歩きながら
たくさんお話ししてくれた。
そうして別れ際に
「天童は、りさ子さんを愛している」
と言った。
だから〜〜だ、とかそこに続く言葉がなくて、ただそれだけを言った。
そうして私はその言葉に、なぜか泣きそうになった。
「6年も一緒にいて、一度も想いを言葉にしてくれてないなんて!」
「お金はあるくせにあのアパルトマンにずっと住むなんて責任から逃れてるように見える」
「ねぇ、そろそろ流石に結婚とか考えてもいい頃なんじゃない?」
覚は誤解も生みやすいし、その上誤解を恐れないので
私はいろんな要らない心配を向けられることが少なくない。
そうしてそう言う人たちには私にとっての真実をどう伝えても、
なんていうか、私の思い込みととられる。
覚から感じる愛は本物で、
一つも疑ってないのに、
心配してくれる気持ちからかけられる言葉が苦しかった。
人を不幸にするのは必要のない哀れみの心なんじゃないかとも思った。
こんなに幸せなのに。
そんな風に思われてるなんて、悲しい。って。
でも仕方ない。
私は私のままで毎日を幸せに生きることでしか、
私が幸せなことを証明する術はないんだし、と思って
あまり気にせず過ごしていた。
それは本心だし言い聞かせてたわけじゃない。
ほんとにそれしかない、って思うから。
でも、若利くんの裏のない、
そしてそこから発展していく話のないただ、
覚が私を愛してる、という… 報告?の威力はすごかった。
だから素直に
『うん、知ってる。でも若利くんにそう言ってもらえて嬉しい。ありがとう』
と答えた。
そうしてまたいつかの日まで!って握手して、ハグをして、
若利くんと別れた。