第2章 玉ねぎ
「うまいな」
『うん、美味しいね。 それからやっぱり若利くん食べ方綺麗』
「それは… 祖母のお陰だろう。
左利きだから指導するのに苦労をかけたが、
幼いうちから様々ことを身に付けさせてもらいありがたいと思う」
『あ、そっか。確かに。
左利きの人に伝えるのって当たり前のことほど難しいよね。うんうん。
でもさ、左利きの人はとっくにそれを超越してるなーって思う』
「…?」
『右利きの人の当たり前に、当たり前に触れながら、
臨機応変に自分のやりやすいようにやってる。
右利きの私からしたらスタートラインが違うって感じ』
「…?」
『んーと、私がもし右腕を骨折したら結構イライラすると思うの。
でも左利きの人って右手を使うことにも慣れてたりして、
左腕を骨折しても私ほどは精神的ダメージを受けなそう。
…あ、生活において、だけ。 バレー、仕事、となるともちろん別問題』
「…そうだな 俺は… 俺は左手を骨折したら、ストレスを感じるだろう」
『うん、それはそうだ。当たり前だ。
でもなんていうか… 右利きの人よりはそういう部分で、柔軟性がきっとあると思う。
いいなぁって思うよ、左利き。 ないものねだりに聞こえるかもだけど』
「あぁ。 左利きでいさせてくれたことには感謝している」
『うんうん』
理由はよくわかんないけど、
小さい頃に直されたって話もよく聞くもんな。
そしてふと若利くんと会話がすこし、弾んだことがうれしい。
「おっまたせ〜」
パフェを食べ終えた頃に、シェフが直々席までやって来た。
シェフっていうのはつまり、覚。
「とても美味しかった。次は天童の店でだな」
「そうだね〜 来てね来てね〜 友達いっぱい連れて来てね〜」
『覚、パフェ美味しかった。 覚のチョコレートが一番好き』
「うん、知ってるよ〜」
「それで天童、」
「なになに〜?」
「店の名前の意味を聞いたんだ」
「…えっ それってもしかしてりさ子に?」
「ああ、それで店の名前が屋根裏というのは……」
…お店の名前がgrenierってことかな。
chocoaterie grenier.
うん、音は綺麗だけど、ちょっとやっぱり風変わり。
大体自分の名前つけるのにねぇ。