第2章 玉ねぎ
『…あれは、あれはさ、若利くんだったからどうにかなった』
「そうだねー」
『あの後結局また二人でシャワー浴びて出てきても、
そのあと3人で一緒にランチを食べにいっても、
リビングで若利くんと2人きりになっても、
若利くんは何も変わらなかった。
なんだろう、忘れようとかもしてないし、見なかったことにもしてない。
でも別段触れることでもない、それが君たちの日常なんだろう、みたいな』
「うんうん」
『…まぁいいや、これは。 12月、撮影の後も若利くんと会えるんだよね?』
「撮影の後っていうか、密着だから取材中ではあるんだろうけど〜 会えるよ〜」
『若利くんと覚のお店行こーっと』
「おお〜いいねェ、おいでおいで。若利くんに言っとくよ〜」
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数日後。
仕事を終えて夕方に家に着くと取材班がいた。
覚の人柄もあって、ほんと、友達が来てるって感じ。
どーもー、お疲れ様です〜 みたいな。
あ、りさ子さんもこれ飲みません?ワイン、開けちゃいました。
あーじゃあ、いただこうかなぁ〜
おつまみ足りてる?
野菜スティックとチーズと覚さんのチョコ。完璧です。
オーケー、じゃあちょっとカバン置いてくる〜
みたいな。
カメラが回ってることとか全然気にならない。
コートをかけて鞄の中を整理して、届いてた葉書に目を通して。
ワインを飲みにダイニングに行くとちょうど来年開く覚の店について話してた。
「お店の名前と同じケーキを作ったのはどうして?」
「えぇ〜なんとなくだよん〜 あっちにもこっちにも転がってる感じがしていいじゃーん?」
「転がってる? 何がですか?」
「んー?それはさぁ、店の名前が〜」
「…いやちょっと、わかんないですね。 あ、りさ子さん」
私に気付いた一人がグラスにワインを注いでくれる。
いい香り。