第2章 玉ねぎ
『そりゃああったさ。 炭治郎なんて愛で溢れてるじゃない。
鱗滝さんも、冨岡さんも… 愛を感じるじゃない、そこここで』
「悲しみの理由はいつもいつも愛だった」
『ねぇ、覚。 涙の理由と悲しみの理由。 涙の理由と愛。 ごっちゃになってない?』
「んー?」
玉ねぎを刻んでて思い出したのは確かに
悲しみの理由はいつも愛だなってこと。
でも涙の理由は単純に玉ねぎによる襲撃と
それからこの家のキッチン、ううん、
この家に溢れてる覚の愛をいっぱい思い出したから。
『悲しみの理由にはいつも愛があると思う。
でも涙の理由はいつも悲しみではない』
「あ〜そういうことかぁ〜 ほんとだ、俺ごっちゃになってた〜」
覚にしては珍しいミスというか見落とし?見誤り?だな、とか思いながら
これで一件落着だね〜 とか言って、
覚の身体に腕を巻きつけ 覚の次の言葉を待つ。
おやすみ、でも。 鬼滅の話でも。 なんでも。
今朝キッチンで、確かに悲しい気持ちは思い出した。
覚と同じベッドで初めて迎えた朝のこと。
あの日、ぼんやりした頭で前日の行為を思い出し、
そこに愛があったことにほっとした。
そして、いつか思い出した時悲しい気持ちにはなるかもしれない、と思った。
その悲しい気持ちは確かに愛によるものだった。
20歳の男の子と出会って、その日のうちにセックス。しかも夜這い。
普通に考えて、次を期待することはない。
期待はないけど、確かにその行為は愛に満ちていて、
そして私は覚に強く惹かれていた。
じゃないと、夜這いをかけられて、ラクにしててと囁かれて、
本当に言われるがままラクになんかするはずがない。
でもそれでも、期待はできない。
こんなに愛を感じるのに、今日学校を終えて帰ればもう彼はいないのか。
そう思うと今が悲しいというより、
未来の私の心情を思って悲しくなる気がしたのだ。
繰り返される歳月の中で
ふと思い出すだろうこの日のこと。
そうしてどんどん重なって、
ある日、覚と共にいないことに悲しみを感じるんじゃないかなって。