第2章 玉ねぎ
『…そうだな、フードプロセッサーの中とか』
「…ギクッ」
そういえば昨日壊したんだ、と思い出して適当に言ってみれば
覚はあからさまにぎくっとした動きを見せる。
「…買って帰ろっかね。 あれ作ろうかな〜、元気玉」
『お。元気玉。 食べたい食べたい』
今はもうわりと普通にみんなが知ってる食べ物になったブリスボールを
覚は高校の時に初めて食べたという。 8年前?
学生時代バレー部に所属していた覚。
引退試合を終え学校へ向かう帰りのバスが出発して程なくパンクした。
タイヤ交換してる間道端で待ってると背中に女の子が激突してきて、
その子が手に持ってたフードケースの中に入ってたんだって。
それをどうして覚が見ることになったのか、
食べることになったのか… たやすく想像がつく。
「りさ子は俺をクレイジーで図々しいみたいに言うけどネェ、
あの子はあの子でクレイジーな子なんだよ〜
俺に一つも警戒心を見せずにまっすぐ目を見つめてくる感じの子。
あの頃、鷲城監督と若利くんとあの子くらいだよ〜、
俺と初めて話した時に怪訝な顔見せなかったのって」
…って言ってたっけ。
若利くん。
『…そういえば情熱大陸の取材っていつから?』
「来月〜」
『えっ もうそんなすぐだったっけ?』
「密着ってどこまで密着するのかな? ねぇ、一緒に屋根裏で寝るのかなァ?」
『…いやそれはないでしょ』
「けどさけどさ、プライベートも是非映したいってことは
りさ子の存在も明かされるよね、ね?」
『明かされるって、別に秘密にしてないでしょ』
「顔出す?顔出す?」
『…? 情熱大陸ってどういう番組だっけ。 いや私の顔とか出すやつじゃないでしょ。
あくまでも、覚に密着だよ。確か。
顔を出すのは私じゃなくって、ジャンさんとか若利くんとか。そういう位置の人でしょ。
っていうか企画書ちゃんと読みなよ〜』
「読まないよ〜 聞いてないと困ることは先に電話で言ってって言ったもん。俺読まないからって」
『…まぁ、それなら読まなくていっか』
「でしょでしょ、いーの」