第2章 玉ねぎ
「他にはどこに転がってる?」
なんだ、結局それか。
そんなのそこかしこに転がってる。
覚と出会ったマルシェにも、
覚がいつも一粒だけは必ず取っておいてくれるプラリネチョコにも、
屋根裏にも屋根窓にも、わたしたちの住むアパルトマンにも、
こうして歩く散歩道にも、それから覚の触れたところ全てにも。
覚縛りだけでもまだまだあるんだ。
これが親の愛、友情の愛、隣人愛、動物… ファッション…
そんな風に広げていけばキリが無い
落ちてくる雨粒にさえ愛を感じる
デザイナーとアシスタントが血眼になって探してきたレースにも、
何度も何度も試し染めを繰り返した末にこれだと選ばれた染料の配合にも、
それによって綺麗に染め上げられたシルクの布にも。
愛は転がってる
受け取る側の心構え次第だ
そんなこと覚には言わないけどね
覚から好きも愛してるも言われたことない。
覚が大好きと口に出すのはチョコレートだけだ
でも私はちゃあんと覚からの愛、受け取ってる。
わかんない、勝手に受信してるだけかもしれないけどね。
でもいくら言葉があったって、
それを受け止めたつもりでも足りないことはいくらでもある。
言葉がなくても受け止めれるなら、それでいいって、思ってる。
不満は一つも、ない。
強いて言えば、あの試作品がまだ完成しないこと。
いや、相当美味しいはずなのに6年かけてもまだ、商品化しない。
ホワイトチョコとパッションフルーツのムースと
フワンボワーズのセミコンフィ、
それからミルクチョコクリームを
グラサージュショコラで覆ったあのケーキ。
不満じゃないけど、不思議というか。
いつまでやってるんだろうな、あんなに勢いよく試作を始めたのに。っていう謎。
私はあのケーキにどうしても思い入れがあるから、
ふとした時に買って食べれたらいいのになって思う。
でもいつまで経っても店頭には並ばない。