第2章 玉ねぎ
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21:30
いうてもまだ、30分のオーバー。
よかった。
鞄を持ってさっと表に出ると、
彼はキャンバス地の大きなトートバッグを抱えてそこにいた。
マフラーを巻いて、手袋をはめて、
あったかそうなロング丈のウィンドブレーカーを着て。
『…ごめんね、ちょっと待たせちゃって』
「ううん〜 ぜーんぜん!」
『じゃあ、うちこっちだから』
家具付きのアパルトマンの4階を借りてる。
4階にしたのは、このアパルトマンの最上階が4階で、
私はどうしても屋根裏付きの部屋に住みたかったから。
階段を登って、鍵を取り出す…
『…ちょっと待って、自己紹介まだだった』
家までの道すがらいろいろ話をしたけれど、
彼がこちらに来てからの半年間のこと。
それから、私の行ってる学校のこと、借りてる部屋のこと…
そんなことでバイト先から15分の道のりはあっという間に埋まってしまった。
その15分間での印象は…
彼は思いの外優しく、人の話が聞ける人だということ。
第一印象が強烈だったためか、
そんな人として当たり前のことのようなこと…
でも意外とできない人も多いこと…
それをできるというだけで妙に、好感を抱いたというか…
惹きつけられている自分がいた。
「あ、そうだよね〜 俺は天童覚。 覚でいいよ〜」
『私は佐々木りさ子。呼びやすいように呼んで』
「じゃありさ子で」
扉の前で自己紹介を終え、家に招き入れる。
ただ、パッションフルーツを渡すだけだし。
まぁ、お茶くらい出そうとは思ってるけど。
そんな緊張とか構えとか一切ない。
だって彼、なんていうか、頭の中チョコレートのことでいっぱい。