第2章 玉ねぎ
「あーりさ子! ちょっとどうにかしてくれよ、この子!
日本人にもこんなに図々しい奴がいるんだねぇ」
果物屋のおばちゃんが私を見るやそんなことを言ってくる
「えー!日本人なのー?俺もー!ここのおばちゃんと知り合いー?
ねーお願い、俺さ俺さ、パッションフルーツがどーしても使いたいんだよ〜!
ホワイトチョコとね、パッションフルーツでムースを作るんだ。
それでさ、フランボワーズのセミコンフィと合わせて…」
『…パティシエか何かのお勉強?』
私に向かって話しかけてきた彼の日本語の口調は、
フランス語を喋っていたときと何一つ相違がなくって感動すら覚えた。
もうちょっと、フランス語の顔。 英語の顔。 日本語の顔。
みたいになるものじゃないのか。
でもまぁ、確かにこういう人はたまにいる。
そうしてこういう人は語学に長けているし、それだけじゃない人が多い。
人間的にも、スキルみたいなものでも。
それだけの語学力があるなら悠々と語学の道に進むこともできるだろうに
言葉はただのツールだと言わんばかりに。
いや彼らの場合は言葉はツール以前のデフォルト。
初期設定だと言わんばかりにそれらを巧みに扱い、自身の好きな分野を追求してる
「ううん、俺はねお菓子じゃなくてチョコレートがだーいすきなの」
『そっか、ショコラティエだ』
「そう!それでさ、パッションフルーツ…」
『うちにあるよ、10個もあったかな、ちょっと数は定かじゃないけど。
いい香りはしてる。シワも寄ってる。ちょうどこの間…』
「ほんとにー!? それ、頂戴? ねぇ、お願い、それ頂戴!
いや違う、ちゃんとお金払うから、お願いー!」
手を擦り合わせ、身体をかがめ言い寄ってくる
『…うん、いいよ。 じゃなきゃ言わないでしょ、この場で。
でも私さ、今バイト中なんだ。 仕事は夜まであるから、明日の朝とか…』
「じゃあ、夜取りに行く!仕事終わるの何時!?」
『…まちまちだけど日曜だし、20時くらいには上がるよう言われるかも。
いやでも21時にしとこっか。 21時にそこのビストロで』
「おっけー!じゃあまたねーん」
妖怪には会ったことはないけど
妖怪に会った時のような心地がした。
悪い方じゃないけど別に良い方の妖怪でもない。
ただただ、純粋なる妖怪