第1章 チェンバロ
11月。
早々年内の仕事は切り上げてブラジルでバカンス。
リオのレブロンのホテルをとって、
エステにビーチ、プール三昧。買い物は別に興味ない。
そこここでナンパされて食事に行って、
一夜を共にしたりしなかったり。
結局どの国から来たどの男もみんな退屈だ。
金、仕事、人脈…
それに派生するように展開される自分の経験。自慢話。
煽て方。煽てるポイント。
みんな一緒。
少しずつ違ったとしても、みんな、一緒。
ありきたりで、ちっともユニークさがない。
レブロンにいるからつまんないのか。
だってここ、同じような人しか集まらないし。
…って私もその一人か。
結局自分も退屈なやつらと同じじゃない、と自嘲しながらも
今日はダウンタウンの方へ行ってみようと思うと、少し心が高鳴る気がした。
デニムに白いTシャツ、スニーカー。
アクセサリーは全部外して、バッグは…いいや。
なるべく金を持ってることを悟られないように。
金を取られるのはいいけど、脅せばもっと出てくると悟られるのは避けたい。
いろいろ厄介だ。
パスポートのコピーとチップのために用意してる現金だけ持っていく。
紙幣はショーツの紐やブラに挟み、スニーカーのインソールの下にも。
コインまぁいい、デニムのポッケに入れて。
カードもパスポートも、
持ち歩くよりこのホテルの部屋の金庫に入れといた方がずっと安全だ。
テキトーな店で安いバッグを買ってそこにコインだけ入れとけば、
万が一のひったくりもそれ、持っていってくれるでしょ。
いっつもタクシーで全部済ませちゃうけど…
タクシーで降りたらその時点で目、つけられるかもしれないし…
地下鉄?バス?
どこに行けばいいかもよくわかんないし、
バスで窓の外を見ながら降りる場所決めればいっか。