第1章 チェンバロ
「……zzz…」
寝た。
ごろごろと動き回っていた身体がだんだん静かになっていって…
すっと床に足を下ろし翔陽くんの方に近づいていく。
ぺたりと床に座り、翔陽くんの寝顔を眺める。
逞しい首。 逞しい腕。
かわいい、寝顔。
愛おしい、寝息。
キス、したくなる。
誰かの寝顔を見てキスしたいなんて思ったのも初めてだ。
そして、そのキスを取っておこうと思うことも初めてだ。
『君は、私のモーツァルトだね』
「…zzz……」
こんな想い、知らなかったから。
現れるモーツァルトはとびきりエロくて甘くてテクニシャンで、
それでいて身体の相性が格段にいい、そういう存在だと思ってた。
唇はおろか手にも触れたことがない、彼の存在だけで。
日向翔陽くんが彼のままでここにいるだけで。
真剣にビーチバレーしてても、
楽しくおしゃべりしてても、
何も喋らず沈黙が続いていても、
いろんな服着せられて疲れてても、
美味しそうにむしゃむしゃと何かを食べていても、
そしてうたた寝していても。
ここにいるだけで、私の身体は勝手に音を奏で始める。
『やっと、会えた』
「………」
『ずっと、会いたかった人』
「………」
『私のモーツァルト』
「…えっ!?」
『わっ』
翔陽くんの目がパチリと開いて、大きな声でえっ!?って言った。
あぁ、びっくりした。
『目、覚めた? お水飲む?』
「飲む…けどちょっと待って」
立ち上がろうとした私の手首を彼の手がぎゅっと掴む