第8章 空

「りさ子は綺麗やな。言葉に裏表がないのがわかる」











信介さんのその言葉に背筋がひやっとする。
偉そうに言っておいて私は、楽しんではいないつもりだけど、
でもそういう、話題を好む人たちとも常日頃仕事したり、
別段否定や注意などすることもないどころか、意地悪な言葉をたくさん吐いている。










『信介さん、あのね』

「ん、なんや？」

『私、そんな綺麗な人間じゃないの。
意地悪な言葉、気がついたら口を出てることたくさんある。
煽てられて、そしてそこに提示された比較対象があって、
それから、コンプレックスや嫉妬が相まって、結局自分が中心になってる』

「………」

『でも信介さんといると、それが溶けていくみたい。
信介さんは私にとって空みたいな人』

「………」

『これからもし、どんどんと関係を深めていくことができたら、
信介さんは私に幻滅するかもしれない… から、やっぱり先に言っておいた』

「意地悪も嫉妬もなくなって……か」

『………』

「嫉妬は別になくさんでもええやろ。意地悪も使いようなんとちゃう？」

『え？』

「こじらせずに、素直にしとったらええんとちゃう。
意地悪なこと思ったわー、とか。ここに嫉妬すんねや、とか、ちゃんと見据えて。
でもそうやな、流されたらあかん」

『…うん』











自分の中にあるどろどろとしたものをしまい込んだりたり見ないようにするんじゃなくて、
しっかり捉えて、その上で、捻くれずに… ってことかな。











「自分をな、ちゃんとみれとるやつとそうでないやつは、全然ちゃうからな」

『………』

「やから、気にせんでええよ。俺もたいそうなこと言うても、ただの男やし。
これから一緒に生きてくなかで、どえらい嫉妬剥き出しにするかもしれんで？」

『……それは、嬉しい』

「ははっ　やろ？
俺もな、正直まだ、出会ったばかりやし、やきもち妬いとるりさ子なんか、
むしろ見たいくらいやわって思う」

『………』

「やから、ええんちゃうかな」