第8章 空
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きんとんを食べお茶を飲んで、治くんのお店を後にした。
また東京に戻る前に必ず寄るし、去り際の挨拶はあっさりとしたものだった。
そして今、軽トラで信介さんのご実家へ向かっ
『え?』
「ん?」
『手土産も何も用意してない。どうしよう』
「そんなんええって、いきなし俺が誘ったんやし」
『そういうわけにもいかないよ〜』
「…そか ほんなら、百貨店でも寄ってく? それか、あ、侑の好きなアイス屋行こか」
『テイクアウトもできるの?』
「侑が繁忙期の差し入れに持ってきてくんねん」
『信介さん、好き?』
「ぉん、うまいで。ちゃんと作られた美味いアイスや」
『それはすごく遠回りにならない?百貨店とどっちが近い?』
「そら百貨の方が距離は近いけど、すごい遠回りになるわけちゃうし」
『…お言葉に甘えて、アイス屋さんにしたいんだけどいいのかな?』
「ええよ、そんならそっち向かってくな」
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『ひゃーまさかの例のアイス屋さんだったなんて』
「そんなに人の目を引いてたんやな、あの記事」
『バレーボールの宮侑選手がかっこいいって言ってる人も多い上に、
私の周りにはコヅケンってワードに敏感な人たちが結構いるから。
だいぶ話題にはなってたよ。 パワーワードが揃いすぎてるって』
「侑、研磨くんの他に何?」
『略奪とか?そういうの好きな人って意外と多いよね』
「略奪を?」
『するのとかされるのを好きな人は少数だろうけど、
叩いたり話題にしたり、憶測したりそういうの』
アイスはとても美味しそうで、
味見をさせてもらったものも実際とても美味しかった。
コーンも焼いてもらって、テイクアウトに。
ただそのアイス屋さんは見覚えが確かにあって。
それが仕事現場でスタッフや他のモデルたちが盛り上がっていた
週刊誌の記事に写っていた場所だったのには少々驚いた。
「…噂話とか、そういうやつか。よぉわからん」
『ね、よくわかんないよね。何が楽しいんだか』