第8章 空
「…大丈夫やで、そのまんまでな、大丈夫な家族や。
あんなちゃんとした人見たら、どんな家族なんやろって慄いてまう気持ちも解るけどな」
『………』
「まぁ、大丈夫やで。俺らみたいなんを、受け入れて見守ってくれるような人やで。
俺らはそれでもまとまっとったけどな、烏野みたいなチームとか見たってな、イライラとかせんからな」
『………』
「相手より自分やねん、あの人は。自分が、ちゃんとすんねん。
やから、実際は抱くイメージより、大らかなんやで。
そんなん、もう分かってるかもしれんけど。
俺は北さんと部活しとる間はそこまでわからんかったからな、一応言うとく」
『ん、ありがとう。治くんって…』
「んー?」
『バレー、好きなんだね。 高校時代の部活が、かな』
「そやな、好きやで。 好き。 …ほい、そしたらこれおまっとさん」
ほかほかと湯気の上がるおむすび、お味噌汁。
ちょこんと添えられた、でもいるといないとでは大違いな名脇役のようなお漬物。
お味噌汁には木の子と生姜の千切りが入っていて。
それからもちもちとした蓮根つみれが3つ、ごろごろと。
梅干しも、美味しくって。
海苔も本当に美味しい。
ほんとにほんとに…
『美味しい〜〜〜♡』
「ははっ、えかった。旨いよなぁ、俺も今日も旨いのできたなぁ思ってた。あ、味噌汁の話な」
『ご飯も美味しい。何もかも美味しい。治くん、モテるでしょ?』
「そーやなー、おかげさんで色々誘ってはもらえるけど…」
『一途なんだね』
「そーやねん、一妻多夫でもええねんで、言うてその子にもその彼氏にも言うてんのやけど」
『おぉ、彼氏にも言ってるんだ。すご』
「なかなか、実らんなぁ。 まぁええねんけど、好きな人おるだけで幸せや」
『………』
じゃあどうやってその若い健康的な身体にあるであろう性欲を処理してるんだろう、とか思っちゃうけど。
聞かないでおく。 きっと、その辺りも、一途なんだろう。