第8章 空
『ねぇ、信介さん』
「…ん?」
『私、信介さんのこともっと知りたい』
「せやな、正直なところ俺ももっと知りたいわ」
『ほんと? じゃあ…』
2人で宿を探すなら、さ…
『…朝まで一緒にいれる?』
「は?なんでそうなんねや」
『じゃあ、信介さんはどんな風に私のこと知るの?』
「話したり話さんかったり、一緒に時間過ごしとったら嫌でも知ってくもんやろ」
『うん、そうだね』
「…やから」
『やから?』
「……うち、来るか? 明日の朝も家庭料理でよかったらやけど」
『それは嬉しいけど… こんな時間に初めましてなんていきなり迷惑だから』
「…それもそうやな …やっぱ今日は普通に宿探すんがええな」
『………』
それじゃ、結局…
「そんな顔すな。これ以上ごたごた言わんと遅なる前に探すで」
『………』
ごたごた言いたい。
信介さんともっといたい、もっと知りたい。
一夜の関係だなんて、絶対にない人だから。
今日一緒になりたいとかそういうんじゃないの、
ただもっと、一緒にいたい。
信介さんのことを見てたいし、感じてたいし、それに…
信介さんに見られていたい。
「仕事では寒くても寒い顔せんのと違うんか?暑くても暑い顔せんのやろ?
もうちょっと、いや、ええわ。そのままでええ」
『………』
「そのままがええよ、その方が、仕事の顔見た時に一層唆られそうやし」
『…そそ…唆る?』
唆るとか、そんな言葉がまさか今信介さんの口から出てくると思わなくって。
ちょっと、驚いた。
そしてそれ以降無言で手を取られ、
手を繋いで歩いてたどり着いた先は… ここはおそらくレジャーホテルと呼ばれるところ?
ラブホでもビジネスホテルでもなくて、きっとそう。
信介さんは2人利用です、とかフロントの人に言ってて。
フロントの人は部屋のパターンみたいなの案内してて。
え?2人?
とかよくわかんないまま、ことが進んでいく。
むすっとしてる間に、気が付けば信介さんとエレベーターの中、2人きり。