第8章 空
美味しくて、幸せで。
信介さんとの会話もとても楽しくって。
ふくふくに満たされて。
栗きんとんあるから、お茶とどうですか?ってお皿を下げるタイミングで治くんが。
是非いただきたい、と答えて一度トイレに立つ。
そしてトイレの外の洗面所…
中にもあるけど、外にあるとこの壁に見つけた。
プリ…クラ?
顔を近付けて見ると、治くんと一緒にそっくりな顔した人。
今よりもっと若くて治くんは銀色の髪の毛をしてる。
そっくりだけどどっちがどっちかわかった、っていうか……
このお店は宮ってお店だ。
この見覚えのある顔は、宮侑選手だ。
今年はいろいろあって開催されなかったけど、
オリンピックの代表候補の選手ですごく話題になってた。気がする。
『信介さん、治くんってバレー日本代表の、宮侑選手と兄弟なの?』
席に戻って単刀直入に訊いてみる。
「そうそう、なんかあった?」
『…? 洗面所の壁にちいさなプリクラが』
「ははっ… 侑のやつまだやっとるんか」
『…?』
「治は極力、侑の双子やってこと店に掲げたくないんやと。
インタビュー時とかの言及とかもな、禁止にしてんねん。
まぁ顔もあれやし、侑は昔っから目を惹く奴やし、内緒にしようがない、
SNSもあるしまぁ、多くの人にとって周知の事実なんやけど。
そんでもな色紙置いたり、写真置いたりするんは…」
「どちゃくそいやや」
『わ、びっくりした…』
「すまんすまん、また侑なんかしてましたか?
これ栗きんとんと渋皮煮、あと熱いお茶です。渋皮煮は、俺ちゃいます」
『あ、例の… 好きな人?』
「そ!美味いで食べてな」
栗の甘味を熱いお茶と一緒に少しずついただく。
その間に、そういえば宮侑選手と治くんはそっくりだなぁ、
治くんもバレーしてたのかなぁというところから始まって、
そもそも信介さんもバレーをやってたんだとか、
治くんのいたチームの主将をやってたこととか、
自慢したい仲間がいっぱいいるんだとか……
信介さんと、たくさん話をして、信介さんのことをまた少し、知れた。