第1章 チェンバロ
翔陽くんは、
淡い野苺色の装飾が全面に取り付けられたミニ丈のドレスと
ホルターネックになってるリネン地のフレアワンピースとで悩んでくれた。
その悩んでくれてる様にどっちも買いたくなる。
いやどっちも買ってしまおう。
…いやでも一着を大事に着たいな、この際。この際だから。
今シーズンの服を来季も着るなんて許されない暗黙のルールのある私のいる世界だけど。
この一着くらい、そういう物にしたい。
「そのシャラシャラしたのが着いたのも相当可愛いけど、丈が長い方にする!
そっちの方がいろんな時に着れそう!犬の散歩とかにも」
『………』
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
どっちも似合うからどっちも買ってあげるよ、とか。
次のシーズン発表されたらまた来よう、とか。
何度も何度も言われた。 何度も買ってもらった。
けど今、自分で買うこの一枚が、すっごく嬉しい。
『うん。これにする。 大事に着るね』
「へっ!? えっ!? 何で泣いてっ…」
『何でもないのだぁ… ただ嬉しくて幸せで。 私、翔陽くんのこと好きになっちゃった』
「へっ!? えっ!? ちょっと待って、それおれが今日後で言おうとしてたこと!」
『…えっ?』
「えっ!?」
あれ? えっ? どういうこと?
とりあえず、選んでもらったドレスを包んでもらって。
エントランス付近に寄せられた車に乗り込む。
購入した物を車まで運んでくれたスタッフが深々と頭を下げる中、車が発車する。
私と翔陽くんの間は謎の沈黙で埋まっている。