第8章 空
「男か女か… そーやね、そこは、そうやんな。頭やらかくしとかなな」
『…柔らかくというか、それが普通なのかなとか。思うけど …って、はっ!ごめんなさい』
初対面の人にそんな、偉そうに。
しかもこんな素敵で、謙虚な人に。
「え?何が?何も謝るようなことされてへんけど」
『いや、私偉そうでしたよね』
「いやちっとも。ごもっとも、って思ったよ」
話しながら、信介さんは思い出したように包みを開ける。
蓋付きの竹かごが登場して、なにそれ、イメージ通りすぎるって心の中で悶える。
あまりじっと見ちゃいけないと思いつつ、そこに何が入ってるのか気になりすぎて目が離せない。
そして、やっぱり。
そこにはふっくらと握られたおむすびが2つ。
それからお漬物も、入ってる。
「…食います? りんごしか食べてへんのと違います?」
『えっ、あっ… いやその……』
っかぁぁぁ…恥ずかしい。
人様の食べ物じーっと見ちゃってた…
『そんなつもりで見てたわけではないんですけど…
でも実の所、この田んぼのお米… 食べたいなって思っていたので、
一欠片で良いので食べてみたいのは本当です』
「一欠片? あぁ、一つは多すぎますか?」
『…というか、それ信介さんのお昼ご飯なんじゃないんですか?』
「これ? 今もう、15時ですよ?」
『そういう日もあるのかな、と』
「そんな日はありません。 昼メシは昼に食べます。 これは間食です」
『間食』
「おやつ、です。 せやから、食べれるんやったら一つ、どうぞ?」
『…そうだな うん、じゃあ頂いちゃいます。
お礼と言ってはなんですが、これどうぞ。 交換こです』
りんご丸ごと一個と迷ったけど
ドライフルーツの方を差し出した。
まだよく知り合ってもいない人に、りんご丸かじりどうぞ、って
おむすびとトレードするわけにもいかない。
「おおきに。 でもあれやったら、りんごの方もらいますよ。
こっちひとつしかないんと違います? りんごはどうもいくつか入っとるんかなって思うんやけど」
『いえでも、おむすびと交換するりんごってなんだか……』
逆にすっぽり、おさまってしまう感じ。
丸かじりすること前提で。