第7章 ひとりぼっち
「もっかい、海寄ってから帰る?」
倫太郎は、すごく優しい目で私を覗き込みながら言った。
頭にぽんって手を置いて。
『…うん、いいね。夕方の海、いいよね』
「花は寄り道しても平気なん?」
『ちょっとだけならきっと』
「じゃあ海ちょっと寄って、いっぺんりさ子ん家寄ってからどっかメシ食い行くでいっか」
『うん、それがいい。倫太郎、ありがとう。私、幸せ』
「…はいはい。 そんなら行くよ」
倫太郎の大きい黒い車。
運転席の後ろの座席にポピーの入ったカゴを置いて、シートベルトをつけてみる。
こうしたら振り返るとポピーがそこにいて、幸せ極まりない。
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夕方の海には散歩の人、犬を連れてたり連れてなかったり。
それからやっぱりサーファーがいる。
潮風が髪を撫で、波の音が脳にこだまする。
寄せては返す、とは本当にうまく表現されたものだな、と思う。
「幸せーってまた思ってんの?」
『んー?』
「ちょいちょい言うじゃん、幸せって」
『あぁ、うん。幸せだなって思ってる』
「…ふーん」
『だから私後ろめたいの』
「ん?」
『…花が咲いてるでしょ』
「………」
『海がきこえるでしょ』
「…さっき言ってたね」
『そよ風も、吹いてるでしょ』
「………」
『それだけで私、幸せって思っちゃうから、だからうしろめたい』
「…なにが?」
『ひとりぼっちが』
「…ひとりぼっちが?」
『ひとりぼっちが』
「…ふーん、よくわからんけど」
…でもさっき、初めてのキスを倫太郎としたとき、
確かにその、後ろめたさがなくなった。
いや、後ろめたさじゃなくて、ひとりぼっちっていう感覚が、薄れた。