第7章 ひとりぼっち
一面に広がるポピー。
花はどれも素敵だけど、ポピーって、すごく等身大な感じがして好きだ。
近寄りやすいっていうか。
それからやっぱりこの、赤色がだいすき。
あるイタリアの高級ブランドが、バッグや服でポピーって色の展開をしてることを知って。
赤は赤でもポピーの色のそれを見て、しみじみとポピーの赤色がだいすきだなぁと思った。
ほんとにほんとに、たまらない色。
そしてこの花びらの薄さ。たまらない。
「ほんで?さっきの続き」
『…なんだったっけ?』
「デッサンはみる作業がなんたら」
『あぁ…別に難しい話じゃないよ。
ただ、質感とか重さとか軽さとか光とか自分の位置とか。
そういうものを、よーくみる作業。それと技術を合わせてやるというか』
「…ふーん」
『だから技術の向上だけじゃなくて、相当見てたなーって思う。目に見えないものまで見てた』
「過去形?」
『あー…今もだけど、その、上手くなりたいってやり込んでる時は、さ』
「ふーん、今度一枚ちょうだい」
『ん?』
「今までの分、払わんといやなんだったら、一枚ちょうだいや」
『デッサンを?』
「うん。だめ?」
『いや、ダメなことないけど』
「んじゃ、それで。できたら描いてるとこ見たいけどな。面白そうじゃん」
『うん、それもいつでもいいけど』
「…明日は大学朝から?」
『午前中にはあるけど、朝からって感じでもない』
「なら、今日も泊まってったら?」
『いやそれは流石に。いろいろ』
「…まーね」
着替えも洗濯も、そしてこれから摘んでいくポピーと過ごす時間もある。
でも、
『…狭いけど、うちに泊まってくってパターンもあったり…する?のかな?』
「なんそれ、なんでそんな言ってる本人がわからん、みたいになってんの」
『いや何言ってるんだろうって思って』
「…じゃあ、そうする。早く出ればいいだけだし。じゃ、摘む?色、指定あんの?」
『わたしはあるけど、倫太郎は倫太郎の好きに摘んで』
「わかった」
摘み取っていい畑に着いて、念願の。
念願の、時間。