第1章 チェンバロ
・
・
・
「えええ なんでメンズ? なんでおれが着るの!?」
『しぃー 翔陽くん流石に声が大きい。とりあえずこれ、着てきて』
白い半袖のコットンTシャツと、
ダックグリーンの鮮やかなコットンショートパンツ。
ポリエステルの編み込みのサンダル。
質はいいけど素材的には翔陽くんにも使いやすいだろうし、
形や動きやすさもなんというか、そわそわしないかなっと。
「…着ました。着ました。着ました」
『お、似合う。 カッコいい。 髪の毛ペシャンコなってるからキャップも選ぼう』
「…あの、パンツのサイズ合わなくて交換してくれて、
それでおれがきたの見たらそそくさとタグ切って持ってかれたんですけど……」
『うん、それはもう買っちゃう。先に、買っちゃう』
「………これだけで…半袖Tシャツと短パンとサンダルだけで20万……」
『お。計算したんだ。すごいね』
「りさ子さん、おれ… こんなことしてもらう義理はないというか…」
『…ん、気を悪くしたらごめん。でも、今日だけ、お願い?
翔陽くんを私の大好きなブランドで包んだらどうなるかなぁって。
それに、今日入るお店はドレスコードっていうか、まぁそういうのがあるから』
「…気は悪くしてないけど なんつーか 情けないっつーか……」
『それはさ、私にもあるから。 昨日、翔陽くんのこと見て知って思った。
自分の情けなさ、いっぱい感じた。 結構すごいのきたよ、実際』
「えっ? すごいのって?」
『能天貫く右ストレート!みたいなの。 くらっとした』
「………」
『だから逃げようかとも思った。 翔陽くんがあまりに眩しくて、あまりに魅力的で』
「………」
『でも、そしたら一生後悔するって思ったのと。
あと単純に翔陽くんといるのが楽しいから。 右ストレートくらっても立ち上がった』
「………」
『あと、勘違いしないで欲しいのは』
「…?」
『これは施しではない。 あと普段の翔陽くんじゃダメって言ってるわけじゃない。全く』
「…うん、それはちゃんと感じてる。壁がない人だなって。
まぁ、最初はそんな、家柄とか知らなかったけどさ」