第7章 ひとりぼっち
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『…あ』
聞こえる。
初めて、聞いた。
「なに?」
倫太郎が運転席から短く、問う。
朝早いの苦手そうな倫太郎は、割と普通に朝起きて、
コーヒーを淹れて、パン屋でなんか買って車の中で食お、って言って。
コーヒーを飲みながら支度を進めて…
って着替えがない私に倫太郎は大きめのTシャツを貸してくれた。
黒地に黄色のThrasherってロゴ。
「脚出すん別に抵抗ないでしょ?サーフィンやってんだし」
って言われて。
あぁ、昨日履いてたデニムも履かずにこれ一枚着とけってことか。
と理解するのに数秒かかった。
昨日もちょこちょこ思ったけど、倫太郎は淡々と飄々と、いつの間にか選択肢を狭めてくる。
でもそこに不思議と強引さを感じなくって、腑に落ちてしまうのが妙だし、困る。
んー、まぁいいや。どっか寄ってちょうどいいのあったら買おっと。
デニムのショーパンとか、合わせたらいいよねきっと。
普通にデニムのミニスカートでもいっか。
とか思っちゃう私がいて。 だからまだ私は下着の上に倫太郎のTシャツ一枚の格好。
でもまぁ別にこれが下着じゃなくて水着だったら、ほんとこんな格好で普通に地元をふらふらしてた。
だから正直、抵抗はない。 下着は見られるのは恥ずかしいな、とは思うけど。
そして車を走らせて約2時間。
アクアラインのとこではわかんなかったけど、
千葉の海沿いの道を走り出して窓を開けると、確かに、
『海が、聞こえる』
「車の音じゃないの?風とか」
『ううん、赤信号だったでしょ今』
「あぁ、停まってたか」
『初めて聞いた。本当に海って聞こえるんだね』
昔に作られた映画のタイトルになってて、
魅力的なタイトルだけど、ピンとは来てなかった。
今、分かった。
海って聞こえるんだ。