第7章 ひとりぼっち
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無事にピザ屋には着いた。
けど、予約でいっぱいだって。
店先で言われた。
連休中で、どうして電話してみようって私思わなかったんだろ。
馬鹿だなーとか思いながら、
別にこの状況を悲惨だとかそんな風には微塵も思わない。
ただ、お腹すいた。
ポピーみたいな真っ赤なトマトがぐしゅってなったフレッシュトマトのピザか、
鮮やかなトマトソースが一面に見えるマリナーラが食べたい。
あああ、食べたいなー
なーんて思いながら、白線の上をとんっとんって飛びながら、
ただ、時を過ごす。
席が開くのを待ってるわけでも時間を潰してるわけでもない。
とりあえず今は、こうしてるってだけ。
ぎゅるるるるるる………
あああ、やっぱりお腹すいたな…
もう一度メニューを見て、メニューにさよならを告げて、
また必ずくると心に誓って他へ行こう。
そう思いたった。
とんっとんっと白線を戻り、店の前に立つ。
メニューの写真を目に焼き付け、よし、ここを去ろうって身体の向きを変えると。
「うわ、急に動くし」
背負ってる空のカゴを誰かに思い切りぶつけてしまった。
「なんなんさっきから。ぴょんぴょん、跳ねてるなーとは思ってたけど」
特に表情も変えず、声も怪訝そうではない。
黒髪で、不思議な黄色の目をした男の人。
ヘーゼルカラーの目っていうのかな。
背が高い。首が色っぽい。それから姿勢がいい。
力が抜けてるのに姿勢がいいのは、体幹のなせる技?
「なんでまたそっち向いたん?店入らないの?」
標準語ではないけどコテコテの関西弁でもない、
何だかクセになるイントネーション。
わざと、そうしてるのかな。
『一面に咲くポピーに別れを告げ、再会を約束し、いま去ろうとしてるとこです』
「は?」
『カゴをぶつけてしまってごめんなさい。それでは、ポピーによろしく』
「…いやちょっと待って」
未練がましくなる前に、さっと去ろうとした私を引き止めるこの人。
何かに似てる。 何だっけ。
去年、インスピレーションをもらうためにいっぱいめくった図鑑の1ページにいた気がする。
何の図鑑だったっけ。それすら思い出せない。お腹すいた。