第6章 迷子
とーるは、なんでアルゼンチン行きじゃないのさ、とか言ってるけど。
あの時、一週間とーるの部屋で過ごしたのちに日本へ帰る時。
高校辞めてアルゼンチンに来ようかな、ここでならなんとか仕事は探せるかも。
などとすっかりとーるに懐いてしまったわたしにそうさせなかったのはとーるだ。
──「とりあえず、ヨーロッパでもどこへでも出てみればいいじゃん。
カリフォルニアのその子に会いにでもいいし。その歌とギターがあれば、色々はついてくると思うけど」
『バスキング?』
「それで旅の資金を稼ぐってのもいいんじゃない?
今は動画配信とか、いろいろな切り口から広げれるわけだし」
『…そう、だね。おもしろいかも。でも』
「なに?」
『本気でバスキングするのにこのギターは心許ないよ』
「それくらいでいいじゃん。アンプも繋げない、音もやっぱり普通のタイプより大きくない。
でも惹きつける何かがりさ子ちゃんにはある」
『いやでも現実的に』
「いやだからそれが、旅の醍醐味でしょ。やってごらん、きっとうまく行く。
ギターを買うんじゃなくて、その資金は最初の旅費に回したらいい。
なるべく早く、出発すればいい。 …ただ」
『ただ?』
「高校は卒業しておけば?とは思うかな」
『なにそれ、なんかとーるいきなりつまんない』
「いや高校時代っていいもんだよ。部活とかで時間ないって言ってもあるしね。
やっとけば、って思うだけ。 それにバイトすればいいじゃん、その間に。健全に」
『…』
「それから、16歳ってだけで断られる、とかそういうのは不本意なんじゃない?
せめて18、まぁ正直20、21まではそれなりにそういうの多いかもしれないけどでもさ」
『あー』
「ね? お母さんとも話して、その辺は決めていきな。
辞める、一辺倒で考えないこと」
『でもそしたらさ、とーるののとこに行けるのはいつ?』
「あちゃー…すっかり忘れてたね、そこ。
それはまぁ、そのうちに、タイミングってのが訪れるんじゃないの。
俺もまぁそれなりに忙しくするし、もっとそうなってくつもりだから」
『うん、まぁ、いいや。そういうことで』
そんな風にしてこの流れはとーるが作ったのに。
それにそれ絶対忘れてなんかいないくせにこうやって、馬鹿みたいなこと言ってくる。
とーるってなんなんだろ、ほんと