第6章 迷子
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あれから2年とちょっと。
1年留年して、明日、高校を卒業する。
とーるには会ってないけど、やりとりはしてる。
昨日も電話が来た。
アルゼンチンと日本は12時間の時差。
中途半端な時差より都合は合わせやすいなって思う。
こっちの夕方から夜の時間。向こうの朝。
とーるが電話をしてくるのは大体そのあたりの時間。
昨日も19時ごろ着信があった。
「…それで、どーしてアルゼンチン行きのチケット取らなかったのさ」
『それは、前にも話した。一度行ったことあるとこいってもつまんない』
「あーあ、そんなふうに迷子上手になるようになんて育てた覚えはないのに」
『とーるに育てられた覚えはない』
「…ちぇっ りさ子は俺がお色気ムンムンの南米美女に迫られることにモヤモヤしたりしないわけ!?」
『何を今更』
「俺はりさ子に会いたいよ、ほんとに」
『うん、知ってる』
去年の夏、とーるがお金を出してくれてアルゼンチンに行った。
それきり会ってない。
でも、まぁ海外、遠距離ってそんなもんじゃない?って思う。
それからこの2年の間にとーるは私のことを呼び捨てで呼ぶようになった。
「それで、持ってくものは整った?」
『うん、前とさして変わんないよ。必要なものは現地で揃えればいい。
そのくらいはとんとんで、稼げたらいいなって思う』
「たくましいなぁ、さすが俺の彼女って思うけど、やっぱ寂しいし」
『…女々しいな、とーる』
「ひどいなっりさ子!」
『でもさ、あんま迷子になる気しないよ、わたし』
「へーじゃあどうするの?」
『別にどうもしないよ』
「ふーん、あんなに迷子になりたがってたのに」
…なんか、とーるといると、いやいなくてもとーるが居てくれると
その、そばにじゃなくても、心に、パートナーとして?いてくれると
それだけ迷子っぽい。 なんでだろ、わかんないけど。
大きく巻き込まれる感じと、それから気がついたらお膳立てされてる感じが一緒に訪れてきて。
そう、迷子になる。
たしかにここにいる。
たしかに、私、自分で考えて、こうしてる。
のに、あれ?ってなるんだ。
不思議な感覚。
だからもう別にとーる以外に、迷子のきっかけは求めてない。
そんなこと、とーるには言わないけどさ。