第6章 迷子
「なんでそうなるかなぁ…」
『………』
「りさ子ちゃんそれはさ、ひとりよがりだよ。
そんなんじゃ迷子になんてなれるわけないじゃん」
『なにそれ、そんなこと話してない』
「自分の人生は1人で織りなしてると思ってる?
そのくせ灯台みたいなお母さんがいると1人になれないって?」
『………』
「迷い込んできなよ。俺のところに」
『は?』
「そうやって殻作って、強がってないでさ」
『別に』
「…歌ってる時の君、それから山の話をしてる時の君、旅の話をしてる時の君。
それから、昨日の夜。このベッドで。綺麗だったよ。きっとあれが、本来の君だよ」
『…今の私は私じゃないって?なにそれとーる馬鹿じゃない』
「…はぁ、そんなこと言ってないけど。
でもそうだね、誤解を招く言い方だった、ごめん」
なにそれ、とーる。ずるい。
一人で怒って当たってるの私なのに。
一緒に怒ってくれなきゃ、収拾つかないじゃん、逆に。
「俺が怒ってくれれば、喧嘩別れできるのにとか思ってる?」
『………』
「残念、それはさせないよ。俺は怒る気ないし、君はきっと折れる」
『………』
「いや、折れるはおかしいか。君はきっと、きみの花を外に向かって柔らかく開く」
『………』
「あのInstagramの子のダンスを見てる時に君が感じた感情を、
君も他人に与えていけるような子だと思うよ、俺は。君の歌はすごい。ギターも」
『…なにそれ、だからそんな話』
「してるんじゃない? それっていつの話? 今俺が話してるなら、それが今、話してる話だよ」
『………』
口調は柔らかいのに。
どこか冷たさのあるとーるの声。
それが、私には心地いい。
突き放すような優しさ。
それが、私を引っ張っていく。
突き放されてるのに、なんでだろ、吸い寄せられていく。