第6章 迷子
星野源の夢の外へを歌った。
なんかぱぁーって感じかなって。
それから歌い終えると、とーるは拍手をした。
なんかくすぐったいからやめてっていうと、
ははって笑ってそれから私の頭をまたぽんぽんって撫でた。
さっきより優しい目で。
胸がきゅっとした。今度は子宮はきゅってしなかった。
でも、胸はきゅってした後も小さくどきどきしてる。
「…今の曲、聞いたことある。動画見たことある?高校生の」
『あぁ、うん、多分』
「そっか…知ってるならいいや」
『とーるはあの動画好き?』
「うん、好きだよ。バンドの子も踊ってる子も、すごく魅力的で元気が出た。
俺も、あの動画が撮られた年に卒業したからね。
それで余計にかな、印象的で今でもたまに見る動画」
『へぇ… 私もあれ、好き。特にピアノの人と、あと最後の曲で踊り出しちゃう女の人』
「…ね、あの子のダンスは魅力的だよね。それに俺多分、あの子会ったことあるんだよね」
『へぇ、どこで?』
「バレーの大会を観に宮城まで来てた。だから東京の女子高生だったってことに驚いたけど。
でも、きっとあの子だと思う。あんな子、滅多にいないから。なんていうか、綺麗なだけじゃない綺麗さがある」
『あーわかる。 ねぇ、とーる、これ観たことある?』
Instagramでいつも見てる好きなアカウント。
覆面っていうか、仮面舞踏会っぽい綺麗な仮面をつけて
華麗に舞う女の人のアカウント。
どこの国の人がどこで撮ってるのかはわからない。
カリフォルニアじゃないかってコメント欄とかで言われてる。
まだ動画の数は数えるほどしかないけど
フォロワーの数がすごい。再生数もいいねの数もきっと相当すごい。
YouTubeにあげたら収益が入るだろうに、って、それもよくコメント欄に書かれてる。
なんだろうな、人間じゃないみたいな踊りを踊る人。
妖精みたい。
太陽に、風に、大地に祝福されてるような、人。
この人の踊りは見ていて、
気がつくと楽しいに引っ張られる心地になる。
いや楽しいなんてものじゃなくて、
嬉しい、悦び、そういうなんか明るいんだけどでも優しいやつ。
眩しくなくって排他的じゃなくって、私みたいなのもまぁるく包んでくれるような明るさ。