第6章 迷子
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シャワー浴びてきなよ、って言われて、シャワー浴びて。
俺もちょっと浴びてくるねって言って、とーるがバスルームに行って。
それから濡れた髪を拭きながら、上半身裸で出てきて。
それでも、別に、何もしてこない。
してくるとも思ってなかったけど。
手帳に簡素に書いてる日記みたいなの、書いてる隣で
炭酸水にライムを絞ったのを飲んでる。
りさ子ちゃんもいる?って聞かれて、
炭酸は苦手、って答えたらミネラルウォーターにライムを絞ってくれた。
『明日、明るいうちに宿探す。ほんと、今日はありがとう』
「いえいえ。荷物置いて探せば、ちょっとは心持ちも違うんじゃない?」
『…いいの?』
「いいでしょ、そのくらい。出会いの流れにのっかれたご褒美みたいなものだよ」
『………』
「歌、聞かせてよ」
『歌?』
「歌。ギター、弾いて?」
突然の頼み。
妙に色っぽく感じた。
とーるはめがねをかけて、スペイン語の勉強かな。
なにかテキストっぽいのを手に持ってる。
『…ん、これ書き終わったら、適当に弾くから、とーるはとーるのすることしてて』
「はーい」
くすっと笑って、とーるは返事をした。
私が歌い出すのを待たれるのとか、そういうのが苦手だって察したんだろう。
それできっとくすって笑ったんだ。
何これ。胸がきゅっとする。
それから子宮も、きゅってした。
とーるって、初見が色っぽくてでも胡散臭くて。
知り合うと、芯があって深みがあって面白くて。
それからまたそれ故に、色っぽさが際立つ。
胡散臭さは、愛嬌に代わって。
変な人。