第6章 迷子
『…とーる、もういいよ。今日はもうあっこ、泊まる』
ぼろぼろの安宿。
男女相部屋のドミトリー。
最終手段。
「え?あそこはやめとくって最初に言い切ったとこでしょ?」
『とにかく私は横になりたい、ただそれだけである』
「あはは!なんか口調迷子になってるけど大丈夫?w」
『うん、至って冷静。だからほんととーる、もういいよ?一緒に歩いてくれてありがとう』
「………」
『じゃね、とーるに会えてよかった。おもしろい人だなって思った。バレー頑張ってねー』
そう言って背中を向けた私の腕をとーるはガシッと掴んだ。
「うち来なよ。大丈夫、未成年に手出したりしないから俺」
『は?いいよ、そんなの。自分でどうにかする』
「俺はりさ子ちゃんみたいに旅したことはないけどさ、
出会いの化学変化みたいなのも旅の醍醐味なんじゃないの?
そりゃ、自分のことには自分で責任をっていうのがそもそものスタンスなのかもしれないけど」
『………』
「君を金で買う気もない、泊める代わりに抱かせろって言う気もない、
それなのにこんなにイケメンで色っぽくて優しい男に出会えるなんてそうそうあることじゃないよ?
しかも、ここ、アルゼンチンで」
自分で、自分を、イケメンって言った。
「ちょっと〜突っ込んでよ〜 じゃないと俺、変なやつじゃん〜」
『今突っ込んで欲しかったの?本気で言ってるものかと』
「いや本気だけど。 …で?どうする?君がうち来ないっていうなら俺はもう帰るよ。
付き合ってても仕方がなさそう。だって君、俺に踏み込んでくる気も踏み込ませる気もこれ以上なさそうだし」
『………』
とーるの家の方が絶対シャワーの水圧もいいと思う。あの安宿より。
ベッドは無理でもソファでも十分、きっと。男女混合のドミより。
『…いく』
短くそう告げるとトールはにこっと笑って私の頭をぽんぽんってした。
それから、私のギターに手を添えて、 持つよ。こっちだけでも。 と言った。