第6章 迷子
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「あんた言ってた時間になっても来ないし、他の客いれちゃったよ!」
………。
あちゃーーー そんなに時間に厳しいっけ?
…なわけあるか。 ただ、ま、いっか入っちゃいなって入れたんだな。
まぁ渋ってもしょうがないし。
他にも宿はあるし。行ってみるか。
ガイドブックをバッグから取り出す。
『あ、とーる。もういいよ、ここで。この辺、宿多いし』
「…そーんなわけにもいかないでしょ」
『そうなの? まー、歩きたい気分ならついてくればいいけど。とーるは荷物ないし』
とーるは私の荷物を持とうか?なんて一言も言ってこなかった。
言われても断っただろうけど。
これが違う出会いで、
もしくは私の旅の理由が違ったらきっととーるは持とうか?って言う人だと思う。
荷物どころか宿に一緒に入って交渉ってこともしてこない。
その上手なスペイン語で、その甘いベビーフェイスで、
地域のバレー選手っていう特権で、交渉すれば上手くいくこともあるだろうけど。
とーるは自分に厳しく生きてきた人だ、多分。
だから、優しさを履き違えない。
好きだなと、思う。
あまり優しくされると私の場合蕩けるどころか、
どんどん芯のとこが冷静になって、冷めていって、自分の核みたいなものが浮き彫りになる。
そう、迷子とは程遠い感覚に。
だから、このとーるの感じはいやじゃない。
ただね、したことない人にはあまりわかんないかもしれないけど…
「16歳?無理」
「ごめんねー、来週祭りがあるからいっぱいで。残念」
「空いてないよ!」
荷物を抱えて、宿を探し続けるのはね、結構堪える。
高そうなホテルが目に入って、あー…もうここに入ってしまおうかとか頭をよぎったり。
いや普通に無理。ってなってまた、
ガイドブックを行ったり来たりして、予算内の宿へと足を運ぶ。
激安すぎる場所は虫とか怖いし…
私はただ、この荷物をどさっと置いて、
シャワーを浴びて、どてっと寝転がれる寝床が欲しいだけなんだよ…って途方に暮れてくる。
同時に断られるのに慣れてきて、妙に頭の中はクリアで冷静になる。
変な、変な、ある意味ハイ。
今ならなんだってできる気がしてくる。