第6章 迷子
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「ひぇ〜〜〜…、大胆なお母さんだねぇ。かっこいいなぁ。会ってみたいよ」
『…自分でしかいられない母親。強すぎて、なんていうか…圧倒的すぎて、
それから確かすぎる。その存在が』
「…だから、逃げ出したくなったの?」
『逃げ出したくはなってないけど。 あがきたくはなった』
「……それでどんどん荒れていく、いわゆる非行少女になっていく君をみかねて、
パスポートとチケットを渡した、と」
『…そーゆーこと』
高2の春からほとんど学校へ行ってない。
特定の仲間とかいらないから、ただただ彷徨った。
街を。町を。小さな道を。
たとえば盗みとか。たとえば暴行とか。たとえば騙しとか。
そういうことには一つも惹かれなかった。
でも、身体を売るのはいいと思った。
こっちだって相手を選べるなら、ウィンウィンでしかないって。
そうして処女は30代の既婚者に明け渡し、
その後も20代の金はないけど住む部屋とご飯をくれる人とか。
50代で、結構かっこいい金持ってるおじさんとか。
まぁ、いろいろ。アプリ使って、良いって思う人たちだけと取引した。
感情はない、ただまぁ、上手い人は上手いし、相性の良い人は相性が良い。
身体は素直に反応した。
それはまぁ、楽しかった。
「パスポートも用意したってことは海外自体初めて?」
『小さい時に何度か旅行に連れてってもらったみたいだけど。
もう8年は前のことだから、しかもこんな形でだし初めてみたいなもの』
「…まぁ確かにねぇ」
『………』
「…で、身体売ってどうだった?すり減るものはなかったの?」
『すり減るものなんてない。こっちも相手選んでるんだし』
「…なんてすれた16歳。
まぁでもその外見で、16歳で、たまらない人たちからしたらたまらないだろうねぇ。
誘いの声は途絶えなかったんじゃない?」
『そう…だね、あっちこっちから手を引かれる感覚はちょっと。
迷子になれそうな気がして…… よかったかな』
でも、今一歩迷子になれない。
自分が自分でしかなくて。
母親譲りの何かがあって。
迷子には、なれなかった。