第6章 迷子
「ちょーっと、ちょっとぉ… なにする気?」
素早い反応で私の手を握る。
その、グラスを掴んだ手を。
…反応早いな。
『だ…だれですか?』
「俺は及川徹。ここでバレー選手やってる。
ご飯食べにきたら店の人に、日本人が眠りこけてるから起こしてくれって言われて起こしただけ。
でもほんとに日本人でよかった」
『…そうですか。 それはご迷惑おかけしました』
「ねぇ、君、結構若いよね?いくつ?」
本当にただの、会話なんだろうけど。
この人が言うとすごい、チャラく聞こえる。
『…16歳』
「え?」
『高2』
「は? え? 今って11月だよね? 家族旅行って感じの荷物でもないし」
『………』
「まさか家出? …なわけ」
『…親が』
「ん?」
『パスポートとチケット勝手に用意して。行って来いって、家を出されました』
「えっ!? なにそれどーゆーこと!?
そっかそっかじゃ済ませれないから、俺ここで座ってご飯食べていい?
甘いものでも食べたかったら頼みなよ」
『………』
なんだかいきなりすごい子どもになった気分。
いや子どもなんだけど。
一人旅してたらそういうのも全部自分で抱えて、歩いてるって感じしてたから。
こうやって日本語で日本人に話してると、
あーなんかすっごい現実に引き戻される。
くそ…
なんか腹が立つし、デザートを2つ頼む。
アイスにキャラメルみたいなソースかけたやつと、
プリンにそのソースかけたやつと。
「それでそれで? なーんだかイライラしてるみたいだけど。
そこまで詳細話しちゃったんだから、腹割って及川さんに話しちゃいな!」
『…及川さん ってやだ』
いきなり先輩感。
『とーるって呼ぶ』
「んーーー、だめーーー」
『ダメとかないから』
「っていうか君の名前は?」
『りさ子』
「おっけー、りさ子。なにがどうなって家を出されたのさ?」
別に、私を追い出そうとかそういう過酷で悲惨な類のエピソードじゃない。
その分、ぶっ飛んでるかもしれないけど。
まぁ、私からしたら。
あぁ…うちの母親だな、やっぱ。ってくらいのことだ。