第5章 未来
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昨日は帰ってから顔だけ洗って、
侑くんのベッドでふたり並んで眠った。
時間も時間だったし、
実際もう私の家で十分に重なったし、
本当に眠るだけだった。
侑くんは抱き枕のように私を抱え込んで眠った。
暖かくてちょっと重たくってでも、安心した。
今日初めて会った人なのに安心するってどういうことだろう、とか思いながら、
どんどんと意識は薄れていった。
そして朝。
昨日買い物にも行かずにきたので、
本当にあるもので、用意させてもらった。
スポーツ選手なのでこだわりとかあるかなって思って聞いたら、
パンでもご飯でも良いって言われて逆に迷った。
ご飯は炊かないとなかったし、トーストの朝食に。
バタートースト、スクランブルエッグ、ベーコンとスティックセニョールの炒めたの、
リーフサラダ、人参のバルサミコマリネ、ヨーグルト。コーヒー。
バルサミコ酢なんてあるんだね、と呟いたら
「飛雄くんにこっちで会うたときにもろた。
でもどうやって使うん?言うて聞いても、わかんないっす…やて。
ほんま飛雄くんてなんなんやろな」
って言ってた。
飛雄くんという人が誰かも分からず ? ってなっていたら、かいつまんで説明してくれた。
イタリアのセリエAで活躍する、日本人セッターの影山飛雄という人だそう。
ラベルはイタリア語しかなくって、お土産ってことか、とか。
「ほれ、これ見て?」
もう出来上がるのでテーブルにいろいろ並べていると、
侑くんが雑誌を手に持ってきた。
アート誌だ。ちょっと高めの。
アートに詳しくなくても、なんとなく家に置いておきたくなるようなやつ。
その、インテリアとして。
『…ん?』
「このな、ほれ、これ」
そのページしか基本見てないんだろう、
開いた跡のついたページをさくっと開くと、
こちらを色っぽい目で見つめる黒髪の男性。
髪の毛もスーツもびっしょびしょに濡れてる。
出したくても出せないだろう色気がむんむんとこちらにまで漂ってくる。
「なんでこんなエロい顔してんねやろな。そないな器用なやつちゃうんやって。
意味わからんねん、マジで昔から」
侑くんはジェラシーともまた違った様子で、
あっけらかんとそう、言った。