第1章 チェンバロ
「おれ、お節介とかする気一切ないけど…
もし興味があれば日本帰ってきた時紹介してもいいよ。
世界が違って見えるかも」
孤爪くんは私の内側を見透かしたようにそう言った。
それから…
「ちょっとタイプは違うけどともだちにも一人いる。ほんとに面白いやつ。
でも男だし紹介するって言ったら、なんかそれこそお節介みたいでヤだな…」
そんなことも言ってたな。
『そんな素直そうな子、私が食べたら可哀想だから男の子の方は遠慮しておく。
恋人の方は、そうだね、散々惚気聞かされたし、一度お会いしてみるのもいいかもね』
「…は? 別に惚気てないし」
『いえ、ものすっごく惚気てました』
「惚気てない …っていうかクロみたいなこというのやめて」
『ほわーんてした顔になってた。 …クロってだれ?』
「なってない。 …クロは 今はいい、ややこしいから」
『ややこしい人?』
「胡散臭いひと」
『あはは!それはそれは、いいご友人をお持ちで』
クロという人への胡散臭いの声色が、
その親しさ、信頼を感じ取るには十分なものだった。
言葉も抑揚も表情も動きも最小限なのに、
その最小限のなかでちゃんとそれを有効に働かせるというか。
まさに省エネの極みみたいな人だと思った。
確かに、面白い子。 今振り返ってもそう思う。
お互い恋愛に発展させる気なんて、さらさらなかったけど…
え?
両親はもしかしてそこまで読んでたの?
男と言わず、人間に、この世界に、退屈している私に、
おもしろいな、と思わせる何かを。
引き合わせたかったのだろうか。
そういう風に考えてみると、
つまらないと割り捨てて感じてこなかった、
受け取ってこなかった、様々なものが目に見えるような気がした。