第5章 未来
「なになに?何の話?」
「何でもないわ」
「梅干しがどうとか言うてたやろ?」
「それがどないしたん。
うちはおにぎり屋やで、梅干しがどうとか話とってもおかしないやろ」
「あーーー!わかった!なに?あの梅干しまだあんの?」
「あれはもうないで、代わりに3年熟成させたやつ送ってくれてん」
「まじで!?ほんなら俺もそれ食いたい!」
「はいはい」
それから治くんの兄弟は私のことを見てにこぉと笑った。
「なぁ、サム、この子誰?彼女?」
「いーや、何言うてんねん、失礼やろがい。常連さんからの友達や。
りさ子ちゃんごめんな、こいつツム。 俺の双子の兄」
『ツム?』
「侑!よろしく!」
『侑くん、私はりさ子です。よろしくね』
「りさ子ちゃん、今日休みなん?」
『うん、今日休み』
「俺も!なぁ、ここ出たら一緒にどっか行こや」
「おいツム、ええ加減にせーよ。何なんその軽い誘い方。しゃしゃっとったら干されんで」
『あはは! …でも、ほんと、いつだったっけ?ニュースになってなかった?』
人気バレーボール選手の熱愛報道って。
宮選手、とよばれるその人は治くんとそっくりの顔立ちをしていて、
ああこの人が双子の片割れなのねって思った。
「いやマジで!それ、な!あれほんま腹立つねん、なんでや、まじで腹立つ」
『…? なんで治くんが腹立てるの?』
だってそのニュースになった相手の女性は、
世界のKODZUKENの長年のお相手らしくって、
略奪だとかなんとか、結構大袈裟に報道されてた。
だから治くんの彼女ってわけではなさそうなのに。
「いや、その子が梅干しの子なんやって」
『あぁ、出会ってすぐ結婚したいって思った子』
「なんでガセとはいえ、侑と熱愛報道出んねん、ってむっちゃ腹立ったわ」
『ふーん』
「ふーん、て!」
『ねぇ、もういいからさ、その子の梅干し …しかも三年熟成 早く食べたい』
「おー、そうやった。いま握るわな」