第5章 未来
「うっまぁ〜 ネギトロ×北さんの新米、あかんわぁ。やばいわぁ」
私の実家は佐賀で海苔農家をやってて
一年前から治くんのお店にも直接卸してる。
ここのおにぎりは絶品で
お米も塩もどの具材もすばらしくおいしいんだけど
海苔農家育ちの私には海苔だけがちょっと残念だった。
いや十分に美味しいんだろうけど
うちの実家は国内でも有数の海苔の中でのトップブランド的な。
なかなかの一級品を出していて、そんな海苔は滅多に食べれないとはいえ
破れちゃったのとかそういうの、普通の人よりはいっぱい食べて育ったから。
それで、うちの実家から送られてくるハネ海苔を味見してもらったら
治くんが気に入って、とんとんと話が進んだ。
料亭とか海苔専門店に卸すような一級品を使っちゃうと
おにぎり宮の商品の単価が格段にあがっちゃうから
相談してでも妥協なくちょうどいいものを選んだらしい。
治くんのおにぎりへの、というか食べ物へのこだわりはすごい
…それから一個席を挟んで隣でネギトロ結びを頬張る彼は、
噂に聞いていた治くんの双子の片割れの…名前は思い出せないな。
お店にはお互いによく顔を出しているはずなのに、今日初めて会った
「…りさ子ちゃん何にする?」
『んーとね、じゃあねぇ。 …あ、そういえば梅干しの話はどうなったの?』
「いやまだ無理やって、いつかやりたいなぁとは言うてくれたけどな」
高校生の頃からの知り合いで
美味しい梅干しを漬けるという子が東京にいるらしい。
その子の梅干しを使いたいらしいんだけど
必要とされる量も量だし、難しいだろうなとは話してた。
「ほんでも、あれやったらその子の梅干しで握るで」
『え!ほんとに!じゃあ、梅干しとそれから今日の具沢山の汁物くださーい』
今日の汁物はきのこたっぷりの豚汁だって。
治くんのお店には汁物が2種類あって、
具沢山の方と、シンプルな味噌汁と。
シンプルな方は揚げとかお豆腐とかワカメとか。
取っておいた出汁と具をあっためて、お味噌を溶いてその場で仕上げるやつ。
具沢山の方はもちろん、前々から仕込んでおく系。
新米の季節。北さんの ちゃんと のそれは9月の終わりから10月の頃。
日差しは暖かい日が続くけど風がだんだん冷たくなってきて
きのこたっぷりの豚汁はとても魅力的だ。