第1章 チェンバロ
途中まで一緒だから、と
翔陽くんは自転車を押して私の隣を歩いてくれる。
「おれにはそういう財閥とか、そういう世界はわかんねーけどさ」
『………』
もう終わりにしたはずの話がぶり返される。
わたしの薄っぺらさが露呈されてくような気分。
「お見合い相手に研磨を選んだりさ子さんの両親は、
ちゃんとりさ子さんのこと見てると思う」
『え?』
「まぁ、研磨が恋人いるからって断ってるのに
無理矢理させるとかその辺はおれにはわかんねーけど」
『………』
「でももっといるんだろ、そういう世界にはそういう世界の人たちが」
『………』
「研磨は確かに金持ちだけど、多分まだあの古民家に住んでるし。
なんつーか、そういう世界の人間ではない。興味ない。でも、力は持ってる、っつーか」
『………』
「今まで色々あったんだろうけど、その色々からちゃんと汲み取って、
研磨みたいな人ならって考えてくれたんじゃねーのかなって思った」
『………』
「だからりさ子さんも研磨と裏で連絡とって、上手いこと破断?させたんだろ。
角が立たないように。 もう一度念押しされないように」
『………』
「まー研磨もそういうの上手いからなー!」
『………』
「っつって、またおればっか喋っちゃった。明日どこ行けばいい?」
『…じゃあ20時にレブロンの〇〇ホテルのロビーで』
「えっ えぇっ! 〇〇ホテル!? …あそっか、財閥……」
『…んーやっぱり、18時じゃ早すぎる? 翔陽くんにもっと早く会いたいかも』
「え!いーよ!じゃあ16時にいくわ!」
『え、なんでさらに2時間はやめたの。 …嬉しいけど』
「おれも早く会いたいからおれの分も2時間上乗せした!」
そう言ってにかっと笑い、
帽子を深く被り直して自転車にまたがる。
「じゃー、あした15時に!」
そう言って颯爽と去っていく。
いやまた、1時間早くなってるし…
15時からディナーまで何して過ごすの、
雨だからビーチも行けないし…
とか思いながら、高鳴る胸を抑えられない自分がいる。