第1章 チェンバロ
「うわ!また喋りすぎた!ごめん!」
『だからいいって』
「…でもおれ、りさ子さんのこともっと知りたい」
さっきまであっちこっちに話題も目線も顔の向きも、
手振りもなんなら机の下で足までジタバタさせて
幼児のように話してたくせに。
いきなり真っ直ぐに私を見つめ、そう言った。
『…私はつまらない女だから、話聞いても退屈だよ』
「つまらない人なんていねーだろ!
あのコミュ力0の影山にだって面白みはあったりするんだから」
『…そうかもね、君の目から見た世界なら』
君なら私にとって退屈な男たちのことも、
つまらない、では片付けないんだろうね。
つまんねーな、くらいはもしかして言うかもしれないけど。
今までは私の容姿、身体、背景、親の力……
そういうもので私を判断する、価値を見定める人たちとばかり接してきたから。
今、翔陽くんを目に前にして、
自分のことを知られることが途端に怖くなってる。
散々、他人のことを退屈だと蔑んでおいて、
自分も大概、相当な退屈な人間だ。
というか自分の立場を弁えてないあたり、
あいつらよりもっと、痛くて退屈な人間だ。
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それから少しだけ私の身の上話をした。
ほんとに少しだけ。
つい愚痴を吐いてしまいそうな自分をどうにか自制しながら。
いや、親に関しては冷静に説明してるつもりでも半ば愚痴っぽかったと思う。
『…まぁいいさ。 これ飲んじゃうね。 そろそろ出た方がいいよね?』
「…あ、そっか。うん、そうだ。 おれ行かねーと」
ジョッキに残ったビールを飲み干し、会計を済ませ店を出る。