第4章 写真
りさ子さんは今、たんぽぽの綿毛を手にこっちに向かってくる。
携帯のカメラを起動して構える。
途端、踊るようにくるくると回り出して、
綿毛も共に舞う。
それから飛んだり跳ねたり…
とにかく写真を撮らせないつもり…らしい
…いや、違うなこれ。
これは…
「動くな」
って言わせたいだけだな。
『♡♡♡』
「………」
『白布くんの声も、きっと合う♡
アニメ化決まったらオーディション行くと良いよ』
「行かねーわ」
動きが緩やかになったりさ子さんを数枚撮る。
絵になる一瞬、か。
そんな一瞬が多すぎて…永遠みたいだな。
初恋の相手、牛島さん、
それからりさ子さん。
俺には常に、想う人がいて。
絵になる一瞬が、幾千もあって。
この人がこの瞬間のために生きてるというのなら、
俺はその瞬間を紡いで紡いで永遠にしていきたいな、とか。
『あれ、親来てるわ。お姉ちゃん家』
「はっ!?」
『ご挨拶お願いします。マイ ベスト フレンド』
「…いや俺、ジャージで来ちゃったんだけど」
『そりゃ、いると思ってなかったんだもん。引っ越し業者な訳だし。
オーライオーライ』
「………」
絵になる一瞬って、実はこの世界に溢れていて。
俺らはその、一瞬を少しでも先に繋げてくような仕事をしてくのだろうか。
その一瞬のために生きてる、って実はそんな意味で言ってたのだろうか。
自分のその一瞬ではなく、
これから医者と患者として関わっていくであろう幾多の人のその一瞬のために。
ふざけてるけど、医療への想いは本物なこの人だ。
多分、この憶測は的外れじゃない。
ただ聞いたところでまたふざけた返しをして終わりだろうから。
それにもう、聞かなくても 空想しなくても
隣で見ていけるから その、この人の一生を。
一瞬一瞬を重ねることで見えてくる絵もあるだろう。
それを、一緒に見て行けたら、とか… 思ったり。
fin