第4章 写真
…っつーか俺はもうこれ完全に終わったってこと?
その、りさ子さんとの関係とか。
まぁ医大6年生の俺らは恋にうつつを抜かしてなんていられない。
…ちょうどいいか。
なんかもやっとするけどな。
『…そんなわけで良き旅でした。ご静聴ありがとうございます』
「…なんだよそれ」
『ねぇ、白布くんが一枚だけ撮ってくれたわたしの写真』
「………」
『違うな、私に全部消されたのちに一枚だけ撮ってくれた写真』
「………」
『…どんなだったっけ?』
「………」
──真っ赤なワンピースを着ていた。
春の陽気が暖かすぎるほどで、
羽織っていたカーディガンは脱ぎ去り、
半袖のワンピースだけで過ごしていた。
あの、後。
一度俺の家を出て、歩いて喫茶店へいったんだ。
ここではなく、別のとこ。
昼飯食ってなかったしなんか食うか、なんて話しながら。
ちょうど桜は散り始めた頃で、
舞い散る桜の花びらと共に踊るように歩くりさ子さんを
少し後ろを歩きながら眺めた。
ふっとしゃがみ込み、なにかをじっとみてる。
その後ろ姿は妙に幼くて、儚げでそれでいてどこか神聖だった。
蟻でもみてんのかな、とか思いながら
変わらない歩幅、ペースで歩き続けると当たり前に追いついて。
そしてその足跡で気づいたのか、
りさ子さんはふっと俺を振り返り、俺を見上げ、
『スミレ!』
と言った。
この世で一番美しいんじゃないか、って思う程の笑顔で。
カメラを構えておいてよかった、と思った。
しゃがんでて、しかも後ろからのアングルで、
赤いワンピースも裾から覗く足も、映らなかったけど。
でも、この人のことを思い出すのではなく
この人の一生を空想するには完璧な一枚が撮れたと、思った。
コンクリートの割れ目から咲いたスミレを見つけて
しゃがみ込み、摘むでもなくじっと見つめ、
そして屈託のない笑顔で俺にただ、それを報告する。
この人の一生を、
空想するにふさわしい一枚だと。