第4章 写真
『生命力に溢れていながら、ふっと消え行ってしまいそうな子でさ』
「…」
『強い生のエネルギーと共に、命の儚さを感じたよ。まるで赤ちゃん』
「…」
『産婦人科にしようかな、とか思ったね』
「は?」
『まだ決める必要はないけど、そんなことを思いました』
「…あ、そ」
『関係を持ちたくなるほど魅力的な子だった』
「…は? え、りさ子さんってそっちもいけるの?」
『いけるね、いった事はないけど、いけると思ったんだもん
男とも誰とでもいいわけじゃないのと一緒で
女とだってこの人ならって思う人に出会ったらそれはいけるってことでしょ』
「…」
『でもフラれちゃったの。 思わずキスしちゃって。
あ、もちろんクリニックでのリトリート終わってからね
二泊ほど、素敵なヴィラに一緒に泊まったんだけど』
「…」
『…すごい魅力的な誘いだけど、これ以上はできないって言われた』
「…まぁ、想定内だろ」
『いやでもね、ほんとーに綺麗な子だったよ。それでおかしいのがさ…』
「…」
『その子、全然写真撮らないのね。
たまに撮ってるなーって思ったら、花とか虫とか、子供が遊んだ後の砂の残骸とか』
「…」
『いやそれ、まぁ、花の種類、色彩で南国ってことはわかるけど
それ以上の情報がなくない?っていうのばっかり。
ご飯も撮らないし、空も撮らない。私どころか人なんて、一つも撮る気配なし』
「…まぁ別にそれはいいんじゃないの?りさ子さんだって撮られたくないんだろ?」
『…』
「…は?」
『私は彼女にとって絵になる一瞬にならないのかな、とか』
「…」
『思い出したいとも思わないのかな、とか。思ったけど』
「…」
『でも別にそんな女々しい感じには、ならず』
「いや今聞いた限り、結構女々しかったけど」
『…そうそれでさ、その子ほんと絵になるの。自然の中にいると』
「…」
『だからビーチサイドに咲いてたブーゲンビリアを愛でてる彼女が振り返ったその瞬間。
その瞬間を、一枚だけ撮ったよ。 一年旅して、たった一枚撮った写真。 …見たい?』
「…いや、やめとく」
それ、俺が13年間片思いした相手な気がすんだよな
長期休みが取れてる感じもしっくりくるし
りさ子さんからの誘いを、嫌悪感は出さずに魅力的だとかケロッと言っちゃう感じも