第4章 写真
『カメラ小僧は続いてる?』
大学2年になる春にカメラにハマった。
それから4年の終わりまで、
大学の行き帰りとか図書館の行き帰り、
ふとした瞬間にシャッターを切った。
5年になると
実習がいそがしくなりカメラに触れることも減っていき
今では全く撮っていない。
「いや、続いてない」
『そっか、残念。白布くんがカメラ持ってるの絵になってたのに』
忘れることなどできなかったあの時間、
あの言葉を思いだす。
──『そうなんだよ 絵になる一瞬が大事なの。 私そのために生きてる』
彼女が旅立つ前日、2人で会った。
そして俺の部屋のベランダで手摺りにもたれ空を見上げる彼女を
写真に撮ろうとした。
さらっとした赤いワンピース、風に揺れる黒髪、まだ日焼けする前の白い肌。
青い空、白い雲。
絵になる人だ、と思った。
「そのために生きてるって。 医者になろうとしてる奴が言うことじゃねーだろ」
『あはは! ま、そうかもね』
「最初どこ行くんだっけ?」
『え?どこに行くかなんて教えるわけないじゃない』
「………」
『ねぇ、白布くん』
「あ?」
俺のカットソーの袖を掴みくいっと引き寄せてくる
ふわっと奪われたその唇の感触。
離れてしまう前に押し付けるようにしてまた口付けた。
『…私の写真、全部消して。データ、全部』
「…は?」
『それから今日、一枚だけ私の写真を撮って』
「意味わかんねー」
『白布くんには思い出してほしくないの、私のこと。
っていうか誰にも思い出してもらいたくない』
「………」
『はい、消しまーす』
いつの間にか俺のカメラはりさ子さんの手の中。
そして一枚ずつ彼女が映った写真が消去されていく。
『私ばっかり』
この間データはパソコンに移した。
でも、よくわかんないけど、カメラでいつでも見返したい写真ってのがあって、
それは決まってこの人の写真で。
…だからこの人と知り合ってからのいろんな一瞬がSDカードに残されてる。
それを今度は選択して、一括削除。
あっけないな、でもPCには入ってる。
スマホにも、それなりにある。