第3章 幼少期20〜
「暫く任務は無いの?」
「ええ、義父に付いてやっていてくれと丹波様から」
手掛けた手掛けてないに関わらず数多の人の死を見てきた丹波君。何か感じるものがあるのか黒羽と雹牙に待機命令を下し、信之君と手合わせをして己を磨きつつ日々を過ごしている状態。
組手など体術は僕も付き合わされてるせいか身体のあちこち筋肉痛…いやいや運動不足とかじゃなく現役の忍相手は流石に普通と違い過ぎ無理。
今日は僕への過保護スイッチが入ってるけど、普段は他に近隣諸国の状況も教えてくれるんで考えるのは今後の事。
その事を考えてる事で来たる別れに目を背けてないかと聞かれれば否定は出来ないけど…
先日、信長公も顔を見せに来たっけ。僕達4人纏めて頭をがっしがしに撫で回されたのはいい思い出。
ふと、動く気配に意識をそちらに向ける
理兵衛殿、久しぶりに意識があるのかなと立ち上がれば雹牙達の言い合いもしんと静まりかえった。
ここずっと会話すら出来なくて、未来的な医療器具が無いから延命治療も無理なのだ。
湿らせた布で水分を僅かに飲ませるのが精一杯…不謹慎だけど想像以上に生きてるのが不思議なくらいだった。
灯りと水を手に部屋に入り、顔を覗き込めば僅かに開いた目がこちらを見た。
口元に水を運べばニコリと微笑み言葉を絞り出す
「ありがとう…ございます…」
「り…」
すっと、弱々しく上げられた手が、指が何かを指す…理兵衛殿がまだ動ける時に向かってた文机
あ
だめだ…
急に込み上げてくる涙に、意図を察せても動けず上げられた理兵衛殿の手にしがみついたままで
温かいその手が僕の手を弱く握り返し、あやすように僅かに撫でる。
「ひっ……ぐ…」
「……」
うん。
うん。
僕はあなた達に会えて良かった。
あなた達が居なければ心が折れていたかもしれない。ひたすら面倒事を避けて逃げていたかもしれない。
止まらない涙と、力が無くなり重くなった理兵衛殿の手を握ったままの僕を、隣に静かに座った黒羽がずっと背や頭を撫でてくれていて。
掌で冷たくなる体温を感じながら、僕は改めて彼等の支えになりたいと誓った。