第3章 幼少期20〜
口布を押さえゴホッと咳込めば、喉の奥から血の味に顔を顰める。起きているのもやっとな状態を察した昌幸殿に呆れた顔で見栄っ張りだと茶化されてしまった。
ええ、半兵衛殿に見られたら更に心配されるでしょう…顔色で見破られていそうですがそれはそれ。
「はぁぁ…やられた」
「親父殿が何だか済まない」
「信之君は謝らなくていいよ…」
素直に信じちゃった僕も僕だから。
屋敷のある山の麓。罠が張り巡らされてるエリアの手前で馬番をしていた信之君を見てやられたと崩れ落ちたのは仕方が無い。
いや、顔を合わせた瞬間急に凹んだ僕を見て何事だと信之君に盛大に心配されたけど大丈夫。自分の間抜けさに絶望しただけなんで。
僕の耳に入れたくない内容か。僕の性格や洞察力えを見極めたかったか。どっちもだろうけど
元々大層な脳みそ持ってないのに名軍師に勝てるわけ無いよと脳内でサンドバッグを殴ってたら完全に信之君を置いてけぼりだった。ああああごめん!!
昌幸殿に言われた事をそのまま伝えたらあの親父…みたいな目をしてたけど君も苦労してるんだねぇ。
と言う訳で半ば拗ねつつ信之君と屋敷に戻ったら昌幸殿が雹牙にヘッドロックを食らわせてました。一体僕の居ない間に何が起こったんだろう…?
「あっ、おまっ…この馬鹿!!」
「おかえり雹牙。黒羽もおかえり。顔を見るなり罵倒とはその体勢で随分と滑稽だね」
「半兵衛様どうどう…」
君たちほんと普段の振る舞いと中身の性格がちぐはぐで反映されてないね。物静かだと思った黒羽は腹黒いし雹牙は意外と頭に血が昇り易いし。
僕を見るなりご苦労さんと声を掛けてきた昌幸殿本人はエラく楽しそうで、まあイラッとするけど悪いのは僕の未熟さ故です。
勉強せねばと昌幸殿の横に立てば雹牙を解放してくれた。本人も力負けしたのが悔しいのか突っ伏した状態で、そのまま動かないんだけど。
「竹中のお嬢さん。随分と膨れっ面だねェ」
「お陰様で勉強になりましたとも」
「末恐ろしいことで」
将来が楽しみだとケラケラ笑う昌幸殿の元にまた無言で拗ねてる信之君が睨んだけど諦めた様にため息を吐いた。
今夜君の好きそうな物作ってあげるから機嫌直して、一緒に精進していこうよ。