第2章 幼少期10〜19
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伊賀の里より離れた屋敷に案内され、その中で一際離れた小さな離では以前会った時よりずっと窶れたと感じる理兵衛殿が居た。
野盗が居そうな山の中だけど、伊賀の里に近いからと変なのは寄り付かない?引っかかりそうになったけど、屋敷の周辺に忍の罠が仕掛けられてたら近寄っても命の方が危ないのでは…
「仕掛けたねえ」
「訓練も兼ねているんだそうです」
「そこは理兵衛殿を想っての行動だと思うよ?」
暫く寝たきり故に筋肉が落ちたと零す彼は情けないと言うも素直に喜んでおきなさいと茶化すと、照れ気味の顔は青白い。
こちらに足を運ぶまで色々調べたけどこの時代の労咳に関する医療的資料が圧倒的に不足している。
完治できるようになったのっていつだ?明治ではまだ死病とされてたから…
肺に穴が開いてるだろうと分かってても手術とか西洋医学が来てない時代に手も足も出ないとはこの事だろうか。
ゴホゴホと咳をする理兵衛殿の口に手ぬぐいが巻かれているのは、労咳が人に感染すると知って以来本人が進んで巻く様になった。
任務の時も忍装束の口布絶対外さなかったものね…
「理兵衛殿や丹波君のおかげで、一旦色々と落ち着いたよ」
「それは良かった…貴女の地位は一先ず確立したようで。旅には?」
「まだ行く気は無いかな、理兵衛殿に沢山お礼したいし」
今日から僕の手料理等などを食べる実験台になって貰うからと言い放てば、すんごく複雑そうな顔をされたけど何で?
「いえ…死に行く私がその様な贅沢をしていいものかと」
「何言ってるの!!」
手の施しようがない状態だってのは知ってる。熱もあって青白い顔してる恩人を放って置くほど僕は薄情じゃない。
死に行くと分かっているからこそ、最期の時までお世話をさせて欲しいんだけど!?
持ち込んだプリンの、匙で掬ったものを片手に空いてる手で布を引っ剥がし口に突っ込めば大いに慌てられたけど途中で固まったまま咀嚼しているんで味覚は生きてるね。
そのガリガリに痩せた身体を太らせる勢いで、色んなものを試作して食べさせていくので覚悟してくれたまえ。
胸を張りふんぞり返って言えば深い息を吐いて項垂れられた。いつも穏やかに笑う様な顔をしてるのにこんな顔の理兵衛殿は初めて見たかも?