第1章 幼少期〜9
周囲を見渡しても深い深い木々しか見えないし。完全に山奥だよ、村すら無いわ。
最悪野盗が居れば婆娑羅を酷使して色々ぶんどってやろうと行動をするけど、完璧に野生動物の僅かな気配しかない。
「まずいなぁ…飛び出して来たから誰も僕が外に出てるって気付いてないかも…あ。木通見つけた」
馬の休憩がてら、手網を引きつつ周囲を探索しても新月だし月明かりが無くて真っ暗。
ついてないなと溜め息を深く吐き、伏せた馬の腹に寄り掛かる様に腰を降ろし、獣避けに着けた焚き火に当たった。
パチパチと火と木が弾ける音。
周囲の森は不気味な程に静かで、馬の息遣いの方が大きく聞こえる。
ふと顔をあげて耳を澄ますけど、梟の鳴き声も聞こえなくて、違和感を感じた。
ああ、そうだ。この世に生を受けてから1人で野宿なんて初めてだもの。色々失念してた事が多過ぎて僕って馬鹿だなと頭を抱えるほか無い。
新月の日なんて忍が動くにはもってこいの、身を隠す為に最適な状況なのに。
『ヒヒィィーーーーン!!』
「痛ぁ!?……ちょ!ああもう……」
寄り掛かってた馬が何かを感じたのか急に立ち上がったものだから見事に転がった。馬もさっさと駆けてしまって危うく頭を潰されるかと!?
潰され掛けた驚きで煩くなってる心臓のある胸を片手で押さえ、呼吸を整えようと静かに深呼吸をし
懐に入れてる短刀に触れて確認しつつ馬が怯えを感じた方をずっと睨み付けた。
この世界に生まれてから感じ始めた気配と言う感覚。
婆娑羅の能力のせいか感覚的に点在する気配にも種類があるのを知ったのは帰蝶達に仕えつつお互いの婆娑羅の話をしてからだと思う。
チートなスペックだよねと思考が横道に逸れるけど、まだ死ぬ訳にいかないと集中していれば
『こんな人この世界に居なかった』と断言出来る妙な男が、暗闇から現れたけど。
その色に思わず目を奪われてしまっただなんて。
本人に言ったら調子に乗るから絶対言わない。