第2章 幼少期10〜19
妙に胸騒ぎがする。青ざめてる自覚があるくらい血の気が引く感覚。
これは悪い知らせだ、本能がそう言っていた。
「労咳だ。恐らくもう長くは無い」
「…っ、黒羽は」
「知っている。雹牙もな」
僕と初めて出会った時は既に発症していたらしい。衰弱した様子を微塵も見せず、ずっと強靭な精神力で凛として振る舞い僕の前ではそれを崩す事は無かったのだと言う。
なんで言ってくれなかったの…?と声を張りたくなるのをぐっと堪える。丹波君は勿論、理兵衛殿にもどれだけ救われたか分からないのに。僕は何も恩返し出来ずに見送る事になるのだろうか…?
「理兵衛殿に…何か出来るかな」
「まあ、彼奴も頑固だからな。今から治療法を探すと言い出しても要らんと突っぱねるだろうよ」
「どうして…!君たちは…!」
「理兵衛はお前に感謝しているよ」
理兵衛殿の病の進行が進むにつれて、里での風当たりが強い黒羽達が心配なのだと零していたらしい。僕が現れ、黒羽と雹牙を救出し、今日まで築いた関係に心底安堵したのだと言う。
「伊賀が僕の後ろ盾になってくれたのはそこ?」
「お前と竹中家との決着を見届けるまで死ねないと聞かねえな。彼奴なりの覚悟は…そこは認めてやってくれ。俺も理兵衛もお前の地位が確立する事が望みだ」
気難しく誰にも心を開かない息子達が、唯一忠誠を誓ったんだと言う丹波君の目は酷く優しいもので口を挟めなくなった。
丹波君は弱音や本音を他人には殆ど明かさないのだろう、それこそ理兵衛殿や信長公くらいしか…
「そうだなあ…息子等をこれからも宜しくな」
「なにそれ」
『理兵衛殿に僕に何か出来るか』と問うた答えだろう。本当に忍なのかと疑うくらいのお人好しな言葉に、ボロボロと涙を流し始める僕の顔を見て一瞬驚いた様な顔をされたけど、大きな手が頭の上に乗りゆっくりと撫で始める。
「なに、死に際まで恩人のお前の役に立てるのは嬉しいだろうよ」
「君たちは本当に忍なのか疑うんだけど」
「残念ながら生まれも育ちも伊賀だ。まあ、理兵衛はお前の存在に僅かに希望を持っているんだが…まあ今言う事じゃねえな」
「?」
なんか自己完結された。
これ以上聞いても口を割らない雰囲気の丹波君は僕の頭を撫でたままで…
看取る事は可能かと零せば、嬉しそうに笑ったんだ。